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9/14

9話 幕間 回復への序章 

今回はギター解説と格闘ゲーム成分が多めです。


読み飛ばしても本編にはほぼ影響ありません。


2013年、夏終盤。


古典にマウントを取られた夜。

あれから、1週間が過ぎた。


薄暗い部屋のなか、PCモニターの光だけが、ぼくの顔を青白く照らしている。


時間は17時。


今ボクが挑んでいるのは、詠唱を分解し字面に落とす練習。


「よし次はこの節」

再生ボタンのループと 譜面メモ(ログ)


指板で探す根気 差異 指板で探す根気 追いつめ。



ジャラーン ジャーン ジューン

模倣が続く。


ようは耳コピです。


ソニックの聞きなれた UFOキャッチャーの音が響く入り口。

その、暖簾をくぐります。


ズラリと並ぶ格闘筐体。


ストリートファイターIVが、待っている、


スティック 


うわわあああ  ガチャ ガチャ

そしてあのゲーセンの香りが蘇る。



ファイッ!


こちらは、リュウ 相手は、豪鬼。

まずは探りの一発。弱波動拳。

右にいる相手に、はどーけん!


右にいる相手に

はどーけん! たつまきせんぷーきゃくう!



ギターで鳴らした音が高すぎれば、波動拳は相手の頭上を越えていく。(フレットを左へ戻す)


低すぎれば、波動拳は足元を這うだけで届かない。(フレットを右へ進める)


その差はほんのわずか。


格闘ゲームなら1ドット、1フレーム その見極め。


耳コピでは半音単位の距離感だ。


だが、脳と耳はそのズレを聞き分け、次の一手を決めている。


【ジャジャッ、からの確認ヒット】


まずは単音。


曲の土台になるルート音を当てる。


ヒットを確認したら、その周囲に和音を組み立てていく。


一音ずつ。

豪鬼の逃げ道を塞ぎながら、コードの輪郭を完成させる。


まるで画面端に追い詰めた相手へ、確定コンボを流し込むように。


【そして「ジャキィン!」の火花】


原曲の音と、手元の音。


二つが完全に重なった瞬間。


耳は「合った」と理解するより先に、その一致を感じ取る。


音がぶつかり、火花が散る。


画面が白くフラッシュする。


そして豪鬼の懐に拳がめり込む。


――滅・昇龍拳。


耳コピとは、あの一撃を当てるまでの長い読み合いなのだ。


「ふう ポテチ以上にやっかい――でもやりようはある」

豪鬼の巨体が崩れ落ち、画面に「K.O.」の文字が大きく刻まれる


ただし、こちらのコントローラーは。

「人差し指(1ボタン)」が物理封印。


治療を待つ無駄な時間を有効な儀式へと昇華している。

「よし、次ッ! コンティニュー!」


ぼくは再び動画を巻き戻し、次の1音を探す果てしない読み合い(泥沼)へとダイブしていく。


壁一枚隔てた隣の部屋。


少女マンガを読んでいた妹は、壁越しに聞こえてくる兄の奇行を。

冷ややか聞いていた。


「キュッ……キュキュッ……」というネズミのような摩擦音。

「違う!コンティニュー!」というブツブツとした独り言。

そして、きっちり3分に1回、唐突に響き渡る「滅ッ!!」という謎の叫び声。


(……本当に頭おかしくなったのかな、あいつ)


妹から見れば、それは「スト4の死闘」でも「音楽への情熱」でもない。


ただの、最高に危ない奴の末期症状でしかなかった。

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