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6話 緊急ヒーラー施設へワープアウト

「はああ だっるうううい」

何度目かの溜息を吐きPSPの電源をボクは落とした。


「GMからの受注クエスト庭の散髪」

引きこもり生活で自由な不自由。


それは、食料の交換ギルドの命令でもあるんです。


庭の木の陰が長くなり。

ぼくは部屋の窓から、渡された武器を手に持て余している。


このクランに男は灰実だけ。


父は、別世界。


梅雨を超え伸びる外の「緑のエフェクト」を眼下にする。

気が重くなる。


「はあ 雨ふれ!アクアブレス!」


ジャラーン

吟遊詩人が道具をかき鳴らしても、サンサンと降る陽光には通じない。


拒否権はない。渋々コックピットを降り


GMから支給された「園芸用ハサミ」を手に、庭という名のフィールドへ降り立った。


ターゲットは、無駄に伸びた庭木の枝。

所詮は動かない植物エネミーだ。


大魔法「Fコード」のタコが育ちつつある。


妹に借りた蚊避けスプレーを撒きつつ、狩り効率をシュミレート。


最後に追い込み1撃を叩き込む。


2時間後


「ふっ……こんなボス、一撃で刈り取ってやる」

あたりに散らばった、雑木のエフェクトの中で。

ボクは汗ばんだ髪をすくい。


ハサミを大きく開き、最後の太めの枝に狙いを定めた。

渾身の力を込めて、グリップを握り込む。


ジョキンッ!!


鈍い音と同時に、手元から妙な感触が伝わった。

枝を切断した手応えに混じる、生暖かい弾力 そして焼けるようなじんじんする手の痛さ。


「……ん?」


視線を落とす。

枝は切れていた。見事に真っ二つだ。

しかし、その枝に添えていたはずの左手の人差し指まで、ハサミの刃が深々と食い込んでいた。


「…………あ、いっ


ポタポタと、土の上に赤い雫が落ちる。

いや、血が出ていることよりも、ぼくにとってさらに絶望的な事実があった。


左手の人差し指。それは、大魔法「Fコード」を展開するため。

己の牙が抜けた瞬間。


「ぎゃああああ!」


「ちょっと灰実、終わったー? って、ヒィィッ!?きゃああああ」


悲鳴を受け、様子を見に来たGM(母)が、手を見て悲鳴を上げた。

「おや?」

少し脳内を検索。

悲鳴を上げ悲鳴を呼ぶパラドクス、バイオでもそうそうないよね。


母は、すぐさま横の物干しに吊るされた、タオルをひっ掴み。

左手は包帯ぐるぐる巻きのミイラ状態に固定される。


「バカじゃないの!? 枝ごと指切って!? 早く、病院行くよ!」

「待て、GM!ただのデバフ……」

「黙って車に乗りなさい!」


時刻はすでに夕方。時計の針は、土曜の遅い時間を示している。

結果として、タオルで左手を抑え、顔面蒼白になりながら車に押し込まれ。


「緊急外来」

という名の、高難易度ヒーラーギルド

(大病院)

へと搬送されることになりました。


車の窓から見える、通りすぎる夕暮れの街。


左手はズキズキと脈打ち、Fコードの形に曲げることすら許されない。


ボクは、血のにじむタオルを見つめながら、己のプレイヤースキルの低さを呪った。


2時間後


「高難易度ヒーラーギルド(大病院)」での死闘を終える


静寂の聖堂のようなあの空気感は、まるでDQの音楽の流れる

「おお情けない」

という定型文を見る。


復活の後のようだった。


天井の蛍光灯をぼんやりと見上げる。


あの血みどろの惨劇から数時間。


ぼくの左手の人差し指には、ちょっと分厚めの白い医療用テープがペラリと巻かれているだけだった。


「……わずか『3針』。それが、俺の左手に施された物理封印のすべてか」



実際のダメージ判定は、「ちょっと深めに切ったから縫っときましょうねー」という

極めてドライな処置であっさりと終了したのである。


ガチャリ。

ノックもなしに部屋のドアが開いた。

現れたのは、マグカップを片手に持った妹NPCだ。


風呂上がりらしく、フローラルなシャンプーの香りが部屋の淀んだ空気を一掃する。


彼女は、ベッドに寝転がって左手を天に掲げているぼくを、濡れた黒髪を揺らし。

無表情に一瞥した。


「……まだ生きてたの」

「ああ。深淵の底から辛くも生還した。だが、代償として俺の魔力は……」

「お母さん怒ってたよ。アンタ病院でもへんなこと口走っていたようだって」

「……強制ログアウト現象だ! 、決してビビったわけでは……!」


「はいはい」


妹はぼくの弁明を完全にスルーし、机の上に置かれていた未開封のポテトチップスを無造作に掴み取った。


「で? その指、いつ治るの」

「……抜糸まで一週間。それまでは、大魔法(Fコード)の展開は不可能だ」


この深刻なデバフ状況に、いくら氷のNPCといえど少しは同情の色を見せるだろう。


しかし、妹はポテチの袋を俺によこす、マグカップで麦茶を持つ手を。

冷静に横の箱に置く。


「お兄ちゃん わたしぃ ちからがないの。空けて」

子猫のように従順な妹を見上げ 


ぼくは左手で袋を、抑えるしかしなんと!

人差し指が使えないだけで!我が、親指と中指の耐圧は0。

しゅるり しゅるりとすべる右指の音が空しい。


「ぶっ!だっさ!アハハハハハ じゃあこれ貰うー アハハハハ」


腹を抑えくの字になり痙攣しだす。

妹の大笑いはそのコップを揺らし、ボクの視界すら揺れる。


ヘイトコントロール(怒り)に脳内グラボがバグりだした。

そうだアオハライドで喪失していたが妹は元々秋田書店派。

悪魔の花嫁に染まった小ズルい思考があるんだ。

1分後


「そっか。じゃあ一週間はあの金切り音、聞かなくて済むんだラッキー」


「悪魔か、お前は オーク カスサキュバス 理不尽ドロップエイドリア……」


「それじゃ、ゆっくり休んで」


妹が片目でウインクする。

「おにいちゃん あけてぇ うふ くっ! だめ……お腹いたーい」


「顔もみたくねーよ、くそガキ」


バタン。

無慈悲にドアが閉まる。

後に残されたのは、完全に論破され、ポテチまで奪われた哀れな元ゲーマーただ一人。


ぼくは再び、白いテープが巻かれた人差し指を見上げた。


処置はたったの3針。


「はあ……」


ドン


忌々しいので壁を叩きNPCを牽制する


(……うるさい ジコチューのベール 大蛇丸)


NPCの返事は難解だが魔法少女アニメと忍者熱血アニメを観測。



灰実の牙は、自爆によってもぎ取られてしまった。


しかし、この時のぼくはまだ気づいていなかった。


この「ギターが弾けない一週間」が、あの夜の公園のフィールドにいる観測者――


石橋との関係を、想定外のルートへ導くことになろうとは。

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