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5話 騒音というクランの課題 NPCとの交渉 黒猫灰実の夜便

「あなたの魔法は、騒音をまき散らしだした迷惑な壁」


妹NPCのメッセージ、が繰り返し壁に赤く点滅し表示される。


「まいったぞこれ 消えないぞー」




ぼくは慌てて蒼いモニターに。


「騒音対策 隣の部屋の住人」検索に打ち込んだ。


でた答え。


サーバーSEへの相談(母)。


クランの防音対策(窓)。


実力行使(対戦)。


並ぶのは、実用的な知恵袋と、絶望的なQ&A。


GMである母に相談する、嫌な汗がぶわっと出てくる。


ここは触れたくない未公開エリア。


クラン(家族)への防音対策は、窓に遮音シートを貼るという物理的なデバフ軽減。


(うるさいん だけど?)


そして、今の妹との対面は、まさにスト2の「対戦」そのものだった。


「妹という現地NPCの刃は、なるほど僕というボスの硬直後の隙を無意識に。」


勝手に脳内変換していた。


彼女は、ぼくのFコードを「音楽」とは見なしていない。


ただの不協和音。平穏な日常のサーバーをダウンさせるテロだ。


ぼくが2週間、狂ったように狩りをして集めた「Fコード」という素材。

攻略サイト通りに指を並べ、耐性装備を整えるようにタコを作ったその指先。


それが、ついに現実の壁という境界線を突破し、妹の少女マンガと日常を破壊したと。


壁一枚。

その向こう側では、彼女が静かにページをめくっている。


こちらの部屋の事情は、向こう側のサーバーに何の関係もない。


「……悪いとは思ってるよ」


モニターの光を背にして、ぼくは呟く。


この騒音は、「偽ハイタ」の、塗り替え計画だ。


でも、そのドロップした破片が、壁を破壊し


スヤスヤと眠る宿屋で。


その平和な客の女冒険者を叩き起こした。


NPCの日常を傷つけている。


ぼくの認識は、今完成した。



妹=最終ボス級NPC(現実適応力S)

母=レイドボス(騒音耐性MIN)

防音シート=課金アイテム



ぼくは、ギターを抱え直す。

この「迷惑な壁」をどう攻略するか。




丸投げが一番だ。



妹の部屋のドアを叩いた。


返事はないまま、ゆっくりとドアを開ける。


ふわりと、石けんと制汗剤が混ざったような匂いが流れてきた。ありふれた、生活の匂いだ。


机の上には『アオハライド』の単行本が数冊積まれている。

その横には最新号の『別冊マーガレット』が、きちんと揃えられたまま置かれていた。


押し入れの扉の隙間からは、プリキュアのグッズが少しだけ見えている。


そしてベッドの端には、ピンク色のニンテンドー3DSがぽつんと置かれていた。


画面では『とびだせ どうぶつの森』の村が静かに動いている。

住民が歩き、木々が揺れ、いつもの日常が流れているだけだ。


本体の右上では、小さなオレンジ色のランプがときどき瞬いていた。


――すれ違い通信の通知。


一年ぶりに入った妹の部屋は、何も変わっていないようで、少しだけ違って見えた。ぼくが必死に焼き切ろうとしている「動画サイト」とは無縁の、整然とした青春の聖域だった。


妹が椅子を回転させ、ぼくを見る。

その視線は、「兄」としてではなく、静寂を乱す侵入者として捉えている。


「……何」


喉まで出かかった「ハイタ」としての傲慢な口調を、飲む。


指先には、ギターの弦を弾くたびに育つ、硬いタコがある。


妹の視線が、無意識に手元を掠めた。彼女は何も言わない。ただ、少女マンガが描く甘い日常と、目の前のこの「異物」を比較するように、静かに溜息をついた。


「あの部屋(自室)で弾くのは禁止。お母さんも困ってる」

「……じゃあ、どこで鳴らせと」


ぼくの問いに、彼女は『別冊マーガレット』の山を軽く指先で整えた。


いつの間にか精神的にこいつは、高みにいるのでわ?

この強さは2年下とも思えないです。


「公園でいいんじゃない。22時までなら誰もいないし、散歩する人くらいだし」


それは、妹なりに考えた「迷い猫の居場所」だった。


「公園で22時までなら迷惑にならない。ログアウト地点。さすが、俺の行動を完全に予測して先手を打ってきたな」


(早くどっか行ってくれないかな、漫画読みたいのに)


ぼくは小さく頷いて、その聖域を去った。


トントントンとリズムをよく降り。

「出かける、ご飯は帰ってから」


そう食器を洗う母GMの背中に、エナジー保留の、チャットを飛ばす。


「どうしたの……灰?」

後ろからかかるイベント発動を風に流し、ギターケースを背負って。


ガタと夜風を受ける扉を開けた。


そしてぼくは、公園までの道を歩きながら、さっきのBOSS「交渉」を振り返っていた。


あれだけ悩んだ課金(防音シート)も、クラン(家族)との騒音協定も。

すべてを妹というNPCに丸投げした。


結果、提示されたのは「公園に行け」というあまりにも単純なログアウト処理。


「ああ、なんて楽なんだろう。」

ぼくは、ため息をつく。


悩んでいた時間がバカみたい。


「……ま、NPCの指示に従うのが、LV4リアルだし」


自分にそう言い聞かせて、正当化する。


責任を負うのは『アオハライド』という聖書を唱えたNPCの妹なのです。


スマホをスワイプし地図をコマンド確認。


「家の地点 ゴウゴウとアオハ詠唱の痕跡」

そんな表示はもちろん出ない。


(ワンワワン)

「ヒィ!」

と吠える犬の声、にびびる。


夜の街は、バイオハザード以来で緊張感があります。


ゾンビのひしめく地下洞窟。

そう脳内変換し闇を進む。



公園にログインした。


深夜の公園は、静寂という名の低解像度なテクスチャに包まれている。


ここは昼間、ポケモン好きの観客(小学生)が闊歩する地雷原。


しかし今は、隔離され。


広場の中央、街灯が白く鈍い光を放っている。


公園のあの照明は、22時消灯。


つまりあれが、ぼくの現在のHPバーだ。


点滅が早くなるほど、俺の帰宅ログアウト時間が迫っていることを意味する。


ベンチまで歩く。


ここは、唯一のセーブポイントだ。


ケースからギターを出し。


雑踏のグルーブ、あの日を思い出す。


ワンワンと鳴く犬

ジャ ジャ

弾きだす。


遠のく電車の音。

カン!

ジャアアアーン!

止まる踏切の警音。


1拍起き

遠くにうなる飛行機の音。


「……青の詠唱!」


ジャァァァァァン―――!!

和音が響き渡った

ギターの余韻が、まだ空気に残っていた。


「……悪くない」


そう呟いた瞬間だった。


砂利を踏む音がした。


カツ、カツ。


一定のリズム、迷いのない歩幅。


ぼくは反射的に振り向く。


サックスおじさん?。


スーツ姿。

ネクタイはきちんと締まっているが、無精ひげがある。


仕事帰り特有の、疲労を“隠す顔。


手にはサイドポーチ以外に何も持っていない。


サックスケースもない。


ただの通行人――のはずだった。


ぼく、ではなくギターに視線が止まった。


(観測された)

踏切りが降り

(ボス登場演出)

カンカンカン。


脳内で警報が鳴る。


「……演奏中ですか野良猫くん」


石橋は、まるで病室でカルテを見るような声で言った。


低く、一定で、感情が薄い。


「はい」


反射的に答えてしまう。


彼は少しだけ間を置いて、ベンチの端に視線を落とす。


「ここ、よく使うんですか」


「セーフポイントなので」


自分でも意味の分からない言葉が出た。


石橋は小さく頷いた。


否定も肯定もない反応。

ただ“情報としてたんたんと。


その仕草が、妙に怖い。


彼はベンチに座るでもなく、立ったまま時計を見る。


「遅い時間ですね」


「22時までなら問題ないと……妹が」


言いかけて、口を閉じる。


石橋の視線が一瞬だけこちらに向く。


まるで“症状の確認”みたいな目だ。


「妹さんがいるんですか」


「はい。現地NPCです」


「……NPC」


その単語だけ、彼は繰り返した。


少しだけ考える間、それから、淡々と言う。


「会話は成立しているようですね」


「しています」


「なら問題ありません わたしは、石橋といいます君は?」


「クラン名は、まだ無い 灰実」

何が問題じゃないのかは分からない、でも彼はそれ以上追及しない。


あの時、酒に酔いサックスを赤い顔で吹き鳴らしたおっさんとは別人では?


「あのときはアバターですか?石橋さん」


逆にあの時が、異質だった、ぼくはギターを握り直す。

ジャァン。


小さく鳴らす。


石橋の視線が、そこに落ちる。

「ああ アンプタ?  泥酔していた、路地裏のわたしを切断状態なるほど」

「?」

彼は言いかけて、少し止める。


「……演奏、ですか」


「はい」


短い沈黙。


風が少しだけ強くなる。


木の葉が揺れて、街灯の光が揺らぐ。


石橋はそれを見ていない。

ただ、音だけを見ているようだった。


「音、出してみてください野良猫くん」


診察のような言い方だった。


(観測者が増えた)


(でも、まだ戦闘は始まってない)


ジャァン――


小さく弾く。


1時間後


22時。



公園を追い出され、家へと帰る。


廊下に落ちる妹の部屋からの光。ドアが少しだけ開いていた。


こっそりと覗き込むと、妹は『別冊マーガレット』を机に広げたまま、突っ伏して眠っていた。


彼女の呼吸は穏やかで、この世にノイズなんて存在しないかのような静寂を纏っている。

ぼくは、ギターを廊下に置き、その寝顔を眺める。


この子が明日目覚めて開くのは、マーガレットの中の物語だ。


ぼくが指先から血を流して奏でる大魔法なんて。

「捨て台詞」に過ぎない。


豆が出来た、自分の手を見る。


妹は、俺に公園という新フィールドを与えてくれた。


そこにはおっさんもとい アバターを外した石橋という新キャラが跋扈し。

犬や電車の音、全てが。


今日グルーブセッションの履歴になり残った。


ぼくがこの家(聖域)を汚さないための、唯一の初アカウントだったのかもしれない。


静かにコックピット(自室)へと戻る。


「感情が回復。ボクのMMO脳モニターの電源はようやく切れたようだ」


(切れてないよー)

妹のベットのきしみが壁ごし聞こえる

起きて移動したのか?。

がまあいい

そして、この「野良猫」の預け先がどこにあるのか、ほんの少しだけ、分かりかけていた。

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