第4話 後編
放課後。
図書室の当番。
貸出カウンターの中に、わたしと瀬戸くんが、ふたりで並んで座っている。
近い。
思ったより、近い。
肩と肩の間が、十センチくらいしかない。
息をするのも、気をつかう。
わたし、今、変な呼吸してないかな。
しかも、カウンターの向こう側には、お姉ちゃんが立っていた。
ニヤニヤしながら。
なんで、そこにいるの。
あっち行ってよ。
目で訴えたけど、お姉ちゃんは、親指を立てて、ウィンクしてきた。
ちがう!
そういうサインじゃない!
「橘さんって、本、好きなの?」
瀬戸くんが、急に話しかけてきた。
「え! あ、うん、まあ、ふつう!」
「ふつう?」
「そう、ふつう! 読むときは読むし、読まないときは読まない、みたいな!」
なに言ってんの、わたし。
意味不明すぎる。
お姉ちゃんが、カウンターの向こうで、両手で顔をおおっていた。
やめて。
その反応が、いちばん傷つく。
「ふーん。面白いね、橘さん」
瀬戸くんが、くすっと笑った。
面白いって、今の、笑われたの?
それとも、いい意味?
わからない。
でも、顔が熱い。
「あのさ」
瀬戸くんが、本の背表紙をそろえながら、言った。
「橘さん、最近、ちょっと変わったよね」
「えっ」
「前は、なんか、ずっと笑ってるけど、笑ってないみたいな感じだったから。今は、ちゃんと、表情が動いてる」
どきん、とした。
見られてた。
笑ってごまかしているところを。
気づかれてた。
「……そ、そう?」
「うん。いいと思う」
それだけ言って、瀬戸くんは、また本を並べはじめた。
わたしは、何も言えなかった。
胸の奥が、ぎゅっとなった。
でも、さっきまでのとは、ちょっとちがう。
あたたかいほうの、ぎゅっだった。
カウンターの向こうで、お姉ちゃんが、小さくガッツポーズをしていた。
その顔は、いつものふざけた顔じゃなかった。
どこか、安心したような顔だった。
帰り道。
夕焼けの中を、ふたりで並んで歩いた。
正確には、ひとりと、ひとりじゃない人。
「どうだった? わたしの作戦」
「作戦なんて、なにもしてないじゃん」
「見守ってたでしょ」
「ただニヤニヤしてただけ!」
「それが、見守りだよ」
「嘘だ」
お姉ちゃんは、笑った。
それから、前を向いたまま、ぽつりと言った。
「あの子、ほんとに、あんたのこと見てるね」
「……そうかな」
「そうだよ。わたし、人を見る目だけは自信あるから」
「彼氏いたことないくせに」
「それは関係ないって言ってるでしょ!」
ふたりで、また笑った。
夕焼けが、お姉ちゃんの横顔を、オレンジ色に染めていた。
その輪郭が、ほんの少しだけ、うすく見えた。
気のせい。
気のせいだよね。
たぶん。




