第4話 恋のキューピッド(自称)
水曜日の朝。
目を開ける前に、まず深呼吸をした。
今日は、お腹の上に、何も乗っていない。
……よし。
と思ったら、ベッドの横の床から、にゅっと顔が出てきた。
「おはよ」
「ぎゃあああ!」
「いい反応。五点」
「何点満点なの!」
「十点」
「半分もある!」
お姉ちゃんは、床に寝そべって、わたしを見上げていた。
ジャージ。左右ちがいの靴下。黄色いヘアゴム。
先週と、まったく同じ格好だ。
安心した。
……って、安心してどうする、わたし。
「ねえ、お姉ちゃん」
「ん?」
「先週さ、帰るとき、『来れたら来る』って言わなかったよね」
「言ったよ」
「言ってない」
「言ったって。あんた、寝ぼけてたんじゃない?」
「寝てない! ちゃんと起きてたもん!」
「えー。でも、言ったと思うけどなあ」
お姉ちゃんは、首をかしげた。
とぼけている顔には、見えなかった。
どっちが正しいんだろう。
わたしの記憶違い?
それとも、お姉ちゃんの?
……まあ、いっか。
どうせ、たいしたことじゃない。
たぶん。
今日のお姉ちゃんは、学校には「ついてくる」日だった。
どうやって決めているのかは、よくわからない。
本人いわく、「気分」らしい。
幽霊のくせに、ずいぶん自由だ。
「今日の目標は、柚と瀬戸くんを、ふたりきりにすること!」
「やめて」
「大丈夫、わたしに任せなさい」
「任せたくない!」
「まじで? わたし、恋愛相談の達人だよ?」
「彼氏いたことないじゃん」
「……それは、関係ない」
お姉ちゃんは、ぷいっとそっぽを向いた。
図星だったらしい。
一限目のあと、事件が起きた。
いや、事件というか、わたしの人生最大のピンチだった。
「橘さん、ちょっといい?」
瀬戸くんが、わたしの席の前に立っていた。
心臓が、どくん、と大きく鳴った。
「な、なに?」
「今度の図書委員の当番、橘さんと俺、同じ日なんだって。よろしく」
「あ、うん! よろしく!」
声が、ちょっと大きすぎた。
彩が、となりで、ぴくっと肩を動かした。
瀬戸くんは、にこっと笑って、自分の席に戻っていった。
笑った。
わたしに、笑った。
いやいや、ふつうに笑っただけでしょ。
でも、笑った!
「ほら見ろ。チャンスだ」
お姉ちゃんが、後ろからささやいた。
わたしは、机に顔を伏せて、小声で言った。
「……話しかけないで。今、頭の中が、ぐちゃぐちゃなの」
「じゃあ、ぐちゃぐちゃのまま、聞いて。まず、好きな食べ物を聞く」
「なんで!」
「共通点を見つける。基本中の基本」
「自分でも信じてなさそうな顔してる」
「そんなことない」
お姉ちゃんは、わざとらしく咳ばらいをした。
……この人、絶対、本で読んだだけだ。




