第12話 後編
夜。
お母さんが、先に眠ったあと、わたしは、冷蔵庫の奥から、ショートケーキの箱をそっと取り出して、自分の部屋に持っていった。
お姉ちゃんは、わたしの机の前の椅子で、待ちかまえていた。
「おそい!」
「お母さんが寝るまで、待ってたの!」
箱を開けて、お皿にのせて、フォークといっしょに机に置く。
わたしが買ったケーキだから、お姉ちゃんの手は、ちゃんと、フォークをつかめた。
ひとくち、すくって、ぱくっ。
お姉ちゃんは、目をつぶった。
「……おいしい」
その声は、ふるえていた。
「いちご、多めだね」
「お店の人が、サービスしてくれたの」
「うそ。柚が、頼んだんでしょ」
「……ちがう」
「ちがわない」
お姉ちゃんは、ふふっと笑った。
それから、ケーキを、最後のひとくちまで、ていねいに食べた。
食べ終わって、お姉ちゃんは、リストの八番に、ゆっくり、「済」と書いた。
その字が、いつもよりも、ずっと、ていねいだった。
「ありがと」
「ううん」
「あんた、すごいね」
「べつに」
「ほんとに、すごいよ」
お姉ちゃんは、わたしの頭に、手を置いた。
ふと、時計を見る。
十一時十分。
お姉ちゃんの輪郭が、ずいぶん、うすくなっていた。
向こう側の、本棚が、透けて見える。
「……お姉ちゃん」
「ん?」
「最近、消える時間、早くなってない?」
お姉ちゃんは、一瞬、黙った。
「……気づいてた?」
「うん」
「そっか」
お姉ちゃんは、笑った。
でも、その笑顔は、ちょっと、無理をしているみたいだった。
「大丈夫だよ。まだ、ちょっとだけ」
「ちょっとだけって、なに」
「ちょっとだけは、ちょっとだけ」
「ごまかさないで」
「ごまかしてないよ」
嘘だ。
絶対、ごまかしてる。
でも、わたしは、それ以上、聞けなかった。
聞いたら、答えが、返ってきてしまう気がして。
「柚」
「なに」
「リスト、あと、六と九と十」
「六は、海で済んでるでしょ」
「あ、そうだった」
「だから、あと九と十」
「うん」
お姉ちゃんは、リストを、そっと、わたしに渡した。
「これ、柚が持ってて」
「え」
「わたしが持ってると、いつか、見えなくなっちゃうから」
わたしは、その紙を、両手でにぎった。
切れ端は、ちょっと、あたたかかった。
「……来週も、来るよね」
「来れたら来る」
お姉ちゃんは、いつもの口ぐせを、言った。
でも、その声に、いつもみたいな、軽さが、なかった。
わたしは、目をつぶった。
電気は、ついたまま。
お姉ちゃんの、ページをめくる音は、今日は、聞こえなかった。
かわりに、お姉ちゃんが、小さな声で、歌をうたっていた。
子守唄みたいな、メロディー。
それが、なんの歌なのか、わたしは、最後まで、思い出せなかった。




