第10話 後編
翌日。
脚本を、委員長に提出した。
「え、これ、すごくいい」
読み終えた委員長が、目を丸くした。
「怖いんだけど、なんかあったかい。意外性もあるし」
「そ、そうですか?」
「橘さん、才能あるかも」
才能。
そんな言葉、生まれてはじめて言われた。
どう返せばいいのかわからなくて、わたしは、あいまいに笑った。
でも、つくり笑いじゃなかった、と思う。
瀬戸くんも、横から脚本をのぞきこんだ。
「俺、これ、好きだな」
「えっ」
「最後の『また来週』のとこ。なんか、じーんときた」
どきっとした。
そこは、一番、見せたくなかったところなのに。
一番、本当のところ、だったから。
「あの、その、ありがとう……」
小さくお礼を言うと、瀬戸くんは、照れたように、頭をかいた。
「いや、こっちこそ。……橘さん、最近、いい顔してるよね」
それ、前も言われた。
でも、今日は、前よりも、ちゃんと嬉しかった。
後ろで、お姉ちゃんが、宙を転げまわっていたけど。
無視。
夜。
わたしは、スマホを持って、ベッドの上に正座していた。
お姉ちゃんは、机の前の椅子で、くるくる回っている。
「なにしてんの」
「……お父さんに、返事、する」
お姉ちゃんの動きが、ぴたっと止まった。
お父さんからのメッセージは、先々週から、ずっと、未読のままだった。
正確には、読んだけど、返事をしてなかった。
『今度の日曜、ごはんでもどうだ。無理にとは言わない』
その下に、わたしは、打ちこんだ。
『行く』
それだけ。
すごく短い。
でも、これ以上は、打てなかった。
送信ボタンの上で、指が、ふるえた。
「押さないの?」
「押すよ! 今、押そうとしてるの!」
「手伝ってあげようか」
「触れないでしょ!」
「あんたのスマホだから、さわれる」
「あ、そうか」
お姉ちゃんは、ひょいっと、わたしのスマホの画面を、人差し指でつついた。
ぽこっ。
送信、された。
「ああああ!」
「ナイス、わたし!」
「なんてことするの!」
「だって、ずっと待ってたじゃん、お父さん」
お姉ちゃんの声は、やさしかった。
わたしは、スマホを見つめた。
既読が、すぐについた。
一秒も、たたないうちに。
……お父さん、ずっと、画面の前で、待ってたのかな。
そんなことを思ったら、胸の奥が、ぎゅっとなった。
『わかった。駅前で待ってる』
返事も、すぐにきた。
お姉ちゃんは、にこにこしていた。
そのとき、ちょっとだけ、気づいた。
お姉ちゃんの、お父さんの話をするときの声。
いつもより、ずっと、あたたかい。
わたしは、お父さんのこと、よくわからなくなっていた。
でも、お姉ちゃんは、ずっと、お父さんのことを、ちゃんと、見ていたのかもしれない。
……そういえば。
夜の十二時をすぎたら、お姉ちゃんは、どこに行くんだろう。
でも、その疑問は、眠気といっしょに、どこかに消えてしまった。




