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第7話 後編

夕方。


 家に帰ると、お姉ちゃんは、わたしの学習机の上に、ノートを広げて、そこに、ミニ黒板みたいに書いている。


「第一回、幽霊式・怖がらせ講座!」


「やだ。帰って」


「ここ、わたしの家です」


「そうだった」


 お姉ちゃんは、ペンを持って、ノートに大きく書いた。


『その一 冷蔵庫の前に、ぼんやり立つ』


「ちょっと待って。それ、お姉ちゃんがはじめて来た日にやったやつじゃん」


「そう。実体験に基づく講座です」


「怖くなかったよ! プリン食べてたし!」


「あれは、怖かったでしょ。だって死んだ人が冷蔵庫の前にいたんだから」


「……まあ、驚きはしたけど」


「じゃあ成功」


 お姉ちゃんは、満足そうにうなずいて、次を書いた。


『その二 寝てる人のお腹の上に、あぐらをかいて座る』


「それ、嫌がらせじゃん!」


「いや、お客さんが寝てるお化け屋敷って、ないでしょ」


「そうだけど!」


『その三 靴下を、左右ちがいにする』


「それ、関係ある!?」


「幽霊のアイデンティティ」


「ただの、お姉ちゃんのうっかりでしょ!」


「ばれたか」


 ばれたか、じゃない。


 この人の講座は、全部が、お姉ちゃん自身の実体験だった。


 まじで、役に立たない。


 ……でも。


 ノートに書かれた、汚い字を見ながら、わたしは、ちょっと笑っていた。


 お姉ちゃんが、楽しそうだったから。


 お化け屋敷、作るの、ちょっと楽しみかもしれない。


 


 夜十時。


 お風呂あがりに、スマホを見たら、通知が一件きていた。


『お父さん』


 画面を見て、わたしは、少し固まった。


『今度の日曜、ごはんでもどうだ。無理にとは言わない』


 お父さんと、お母さんは、わたしが中三のときに、別々に暮らすことになった。


 お葬式のとき、お父さんは、いちばん後ろの席にいた。


 わたしは、声をかけられなかった。


 それきり、顔を見ていない。


「お父さん?」


 お姉ちゃんが、わたしのスマホを、のぞきこんでいた。


「見ないでよ」


「見えちゃうんだもん」


「……返事、まだしてない」


「うん」


「どうしたらいいか、わからなくて」


「うん」


 お姉ちゃんは、それ以上、何も言わなかった。


 いつもみたいに、からかわなかった。


 しばらくして、ぽつんと言った。


「あんたの好きにしな」


「それ、答えになってない」


「だって、わたしが決めることじゃないもん」


 お姉ちゃんの声は、ちょっと、さびしそうだった。


 ……いや、さびしそうっていうか。


 なんだろう。


 わたしに、決めさせたがっている、みたいな。


 わたしは、スマホを伏せた。


 まだ、返事はできない。


 でも、ちょっとだけ、考えてみようと思った。


 たぶん。


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