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放送室からのラブレター  作者: 松山 さくら


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第一章 エピソード5

 将司は、米倉に頼んで、放送室に案内してもらった。職員室や校長室と同じ並びの、校舎の奥にある部屋だった。

 普段、締め切っていて、ほとんど人の出入りのないその部屋は、空気が淀んでいた。防音壁に囲まれた奥の部屋には、予想通りと言うか、新旧様々な機器が、所狭しに並んでいた。足元にはマイクか何かの線が、無造作に張り巡らされていて、将司は思わず足を引っかけて、転びそうになった。

 将司は、さっそく機器に接続された配線を、一本ずつ確認し始めた。埃に埋もれた配線は、一体いつのときのものだろうか。こんなものに電源をつなぎっ放しにしていて、よくショートしないものだと感心した。

 新旧並んだ機器を眺めていた将司は、時代の変化と言おうか、面白いことを発見した。あれ、何て呼ぶんだったっけ、巻き戻したり早送りをしたりして、曲の頭出しをしていたあの四角いもの、そうだ、カセットテープだと、記憶がつながった。古い方の機器には、そのテープをセットするトレイが二か所ついていた。もっとも、将司が小学生の頃には、音楽を記録する媒体はテープからCDへと変わりつつあって、二つ目の機器には、CDを出し入れするトレイが顔を覗かせていた。

 そして、最近使い始めたと思しき機器はすっかりコンパクトになり、データを保存したカードだけでなく、パソコンやスマホを直接接続できる仕様になっている。その機器を軽々と使いこなすであろう今の子供たちにとって、苦労してカセットテープの頭出しをしていた時代のことは、どのように映るだろうか。そんなことを考えていたら、将司は自分の小学校時代のことが懐かしく感じられた。

 そんなこんなで、改めて古い機器を詳しく調べてみると、答えは簡単だった。電源がつながったままだったのだ。その機器からは、屋上の古いスピーカーに今も線がつながっていて、トレイにセットされたままのカセットテープに吹き込まれた音楽などを、いつでも流せる状態になっていた。

 そのことを知った米倉は、首を傾げた。

「この機械は、子供たちには触らないように言っていたはずだし、子供たちだってカセットテープの使い方なんて知らないと思うんだけどなぁ」

「ほら、先生、ここを見てくださいよ。タイマーがセットされているでしょ。それも、ちょうど夜の九時にセットされていますよ」

 謎を解決できて安心したのか、将司の声は上ずった。

 学校の放送機器に、タイマーがセットされていることはよくあることだろう。授業の初めと終わりを知らせるチャイムだけでなく、子供たちに下校を促す音楽など、いちいちその時間に放送室に行って、放送を流していたらきりがなかった。

「ほんとだな。確かにタイマーがセットしてある。でも、誰が何のために……」

 米倉は、思わず将司と顔を見合わせた。将司は、そんなことを自分に訊かれても困るとでも言いたげに、顔をしかめた。

「そうそう、先生、中にこんなテープが入っていましたよ」

 そう言って、将司はトレイから出したテープを、米倉に差し出した。表面に貼られたラベルのシールには、何も書かれていなかった。

「ふうん、そうかぁ」

 と、米倉は表情を変えることなく言うと、膨大な量のテープがしまってある戸棚に、さり気なく置いた。

「でも、よかったですね。これで、この騒動もきっと収まりますよ」

 と、将司。

 米倉は、気がかりが一つ減って、ほっと胸を撫で下ろすように、

「ほんと、助かったよ。将司君にはちゃんと、お礼をしなくちゃな。今度、一緒に飲みにでもどう?」

 と、冗談紛れに言った。

 それから、二人は、放送室を後にした。放送室の戸棚の上では、さっきのカセットテープが、差し込み始めた夕日を浴びて、明るく輝いていた。


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