第一章 エピソード4
十八年ぶりにくぐった学校の門の中は、将司がいた頃と少しも変わっていなかった。振り返ってみれば、この間、世間ではいろいろなことがあった。震災や感染症の流行などの自然現象に加え、社会ではここのところ、AIなる得体の知れないものが幅を利かせつつある。それらに併せて、将司の普段の生活も、否が応でも変化を余儀なくされてきたが、考えてみると、学校ほど、変化の乏しい場所はないのではないかとさえ、思えてくる。
三階建ての鉄筋校舎、スレート屋根の体育館、校庭の塗装の禿げた遊具など、どれもが当時のままだった。もっとも、卒業生の立場からすれば、学校がかつての状態のままで残っていることは、歓迎すべきことではあるのだが。校庭から眺めていて、問題のスピーカーは、すぐに見つかった。長年の風雨にさらされて、全体が茶色に変色していた。その横には新しいタイプのスピーカーが据え付けられているので、今はほとんど用をなしていないのではないだろうか。
将司は、校長の出迎えを受けて、そのまま校長室へと入った。途端に、かび臭さを感じた。コンクリートに白いペンキを塗っただけの無機質な校舎の中にあって、そこだけは壁が木目の合板で覆われていて、重厚感と言うか、威圧感を覚えずにはいられなかった。
子どもの頃の将司にとって、そこは謎めいた空間だった。一度も入ったこともなかった場所と言うか、一度入ったらただでは出られない場所だった。あるとき、淳がふざけていて教室のガラスを割ったことがあって、担任の先生に引きずられながら校長室に入っていった。その中で何があったのかは詳しく語らなかったが、そこから出てきた淳の顔が、それはそれは悲壮感が漂うものであって、将司は子供心ながらにその部屋を恐れるようになった。
米倉は、頼みを引き受けてくれた将司を歓迎しようと、当時の卒業アルバムまで引き出してきて、懐かしい話に華を咲かせようとしていたようだが、子供の頃に覚えた感覚は、大人になっても抜けないもので、将司はたちまち息苦しさを感じるようになった。
米倉には申し訳なかったが、米倉の話を遮るように、将司は本題を持ち出した。
「いろいろ、可能性を考えてみたのですが、ラジオの混線だと思います」
「ラジオ?混線?」
それを聞いた米倉は、呆気に取られて、口をポカンと開けた。
「よく聞く話です。配線の中の何かが、アンテナの役割をしていると思いますが、見たところ、それを見つけ出すのは困難です。その屋外のスピーカーは、今も使っていますか?」
「えっ、あぁ、あれは古い放送機器だから、今は多分使っていないと思うが……」
米倉は、慌てるように返事した。恐らく、自分でも、よくわかっていないのだろう。学校と言う場所は、実に物持ちがよいところで、少ない予算の中、不具合があれば継ぎ足しに継ぎ足して、修理して使ってきたのだ。そうこうするうちに、配線は複雑化し、古くなった機器ばかりが増えていく。だから、もしも夜な夜な声が聞こえると言う、あの古いスピーカーにつながる配線を外すか、電源を切るかをすれば、問題は解決すると将司は読んでいた。




