第一章 エピソード2
それからだいぶ時間が経って、会はお開きとなった。淳と里紗とは帰る方向が逆のため、将司は直哉と並んで家路につくことにした。国道沿いを歩いているとは言え、何軒かある店はとっくにシャッターを下ろしていて、あたりはひっそりとした空気に包まれていた。時折、車が将司たちの横を、猛スピードで駆け抜けて行った。そのテールランプが見えなくなる頃には、暗闇が再び、二人を包んでいた。
「ところで、将司は結婚は?」
思わぬことを訊かれて、将司は狼狽えそうになった。考えてみれば、さっきまでは里紗がいたので、軽々しくそうした話をすることが、なんとなく憚られていたのだ。運動が得意で成績優秀だった里紗は、クラスの男子たちの憧れの的だった。里紗の人気は中学校に行っても衰えることを知らず、直哉と淳は里紗を巡って激しくやりあったことがあったのだ。そんな二人に対して、里紗が言った言葉は、実に単純だった。「私、喧嘩する人、嫌いだから」
それには、二人とも参ってしまったようで、それ以降、喧嘩をしなくなったどころか、喋り方まで少し丸くなったようだった。もっとも、そういった駆け引きめいたものは、若かりし故のことであって、今では過去の苦い思い出の一つとして、里紗も交えて楽しく語り合えるようになったのだが……。
「いや、特に今のところは……」
「将司は、昔から真面目だからね。でも、このままこの町で暮らしていこうと思ってるんでしょ。それなら、そろそろ将来のことも考えた方がいいと思うよ」
「そういう直哉の方こそ」
とまで言ったところで、それ以上話すのを止めた。直哉ならなんの心配もいらないだろうと、思い直した。なにしろ、実家が県内で屈指の建設会社を営んでいるため、直哉がその気にさえなれば、向こうの方から結婚相手が寄ってきてくれるだろう。
「将司、里紗のことはどう思ってる?」
思わぬ直哉の言葉に、将司は吹き出しそうになった。
「いっ、いや、別に何も思ってないよ。昔からの同級生、ただそれだけだよ」
本当にそうかと訊かれれば、自分でも首を傾げたくなった。確かに里紗は、小学校のときから理想的な女の子だった。他のクラスメイト達がそうしていたように、将司も密かに心を寄せていたのは、紛れもない事実だった。ただ、それは、男の子がテレビのヒーローに憧れていたのと同じようなものであって、恋と呼ぶものとは別のものだったとも思う。だから、大人になった今は、里紗に対して、淳や直哉以上にごく自然に接することができているのだ。
「そうかなぁ。僕は、将司には、里紗が似合ってると思うけどな。里紗、しっかり者に見えて、実は恥ずかしがり屋のところがあるからね」
将司には、直哉が言った「恥ずかしがり屋」の意味が、いまいちよくわからなかった。
そうこうするうちに、わかれ道に差しかかった。駄菓子屋の角、そこで学校帰りの直哉とわかれて、将司は家に帰ったのだった。
「今日は、いっぱい話せてよかったよ」
「僕の方こそ、遅れて行ってごめんなさい。また電話するね」
そう言い交わして、将司は暗くて細い村道へと入っていった。




