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放送室からのラブレター  作者: 松山 さくら


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第三章 エピソード3

 春の足音がそろそろ聞こえてきそうな時期なのに、ときおり小雪が舞う寒い一日だった。担任の米倉先生はと言えば、将司たちの卒業が迫って、遅れ気味の授業を取り戻そうと、躍起になっている。先生の机の上に山のように積まれた、手つかずのノートやプリントが、それを物語っていた。

 クラスの女子たちはと言えば、教室の前のストーブの前に集まって、何やらこそこそと話し込んでいる。それを気にしてか気にしまいとしてか、男子たちは平静を装いながら、寒風吹き荒れる校庭を、ボールを追いかけまわっていた。

 給食時間は、最悪だった。滅多にお腹が痛くならないのに、給食を食べる少し前からお腹の具合が悪くなって、保健室にかけ込んだ。おかげで楽しみにしていた揚げパンを、食べ損ねてしまった。

 その日最後の授業は、図工だっただろうか。どんよりと曇った空に、窓にびっしりついた結露が重なって、教室の中がいつもよりも暗く感じた。描いているのは、もうすぐお別れになる校舎の絵。六年間の思い出が詰まった校舎なので、明るい色の背景を選びたかったが、外の様子を見ていたら、つい暗い色を選んでしまう。白が混じった灰色、すぐ先に控える卒業のことを考えると、漠然とした寂しさが込み上げてきて、今の自分の気持ちを表すにはちょうどよい色だった。

 チャイムが鳴って、片づけに入った。手洗い場でパレットを洗っていると、隣に淳がいた。いつもなら、何かと吹っかけてくるのだが、この日は彼にしては珍しく、口を真一文字に結んだままだった。ひょっとしたら、自分と同じ気持ちでいるのだろうか、それとも別の理由があるのだろうか。

 終礼は米倉先生が、連絡事項だけを伝えて、呆気なく終わった。一刻も早く将司たちを家に帰して、溜まりにたまった仕事に取りかかりたいのだろう。

 将司は、校舎の階段を降りて、下駄箱に向かった。いつも一緒に帰る直哉が、風邪で休んでいたので、この日は一人で帰らなければならなかった。

 下履きに履き替えようと下駄箱を開けたとき、見覚えのないものが入っていることに気づいた。ピンク色の包装紙に包まれた小さな箱、すぐにそれが何であるのかがわかった。一気に頭の中が真っ白になった。いや、逆に血が一気に頭に上って、気を失いかけたとでも言えば大袈裟だろうか。

 将司はすぐに我に返った。こんなところをクラスの誰かに見られては大変だった。まわりをきょろきょろと見まわした。低学年の女の子が一人、その様子を不思議そうに眺めているだけだった。将司は、ピンク色の箱を慌ててランドセルの中に押し込むと、何事もなかったかのように玄関を出た。歩きながら、足ががくがくして、まっすぐ歩けなかった。

 家に帰った将司は、そそくさと二階の部屋に上がった。まるで割れ物でも入っているかのようにランドセルを慎重に下ろすと、中からさっきの箱を取り出した。

 軽く手に持って、横に振ってみる。甘い香りがほのかに漂ってきた。震える手で、包装紙を開けた。セロテープで貼りつけたところを破らないように開けるつもりが、力が入ってしまい、破れてしまった。中から、白い箱が出てきて、恐る恐る蓋を開いた。

 大きなハートマークのチョコレートが一枚、梱包材に包まれるように入っていた。生まれて初めてもらったバレンタインチョコだった。ところどころ、いびつな形をしているので、それが手作りされたものであることは、普段お菓子を食べ慣れている将司には、すぐにわかった。

 そこまでわかったところで、将司は我に返った。

「誰だろう……」

 箱の中に手紙のようなものは入っていなかったし、包んでいた紙をつぶさに見ても、メッセージのようなものはどこにも書かれていなかった。

 クラスの誰かがくれたことに、間違いはないだろう。試しに、その日一日の様子を振り返ってみたが、特にこれといって思い当たることはなかった。平凡な一日だった。

 将司は、狐につままれたような、不思議な気持ちになった。いずれにせよ、嬉しい気持ちに変わりはなかった。将司は、自分のことを思ってくれている誰かのことに想いを馳せて、チョコレートをじっくり味わいながら食べたのだった。


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