第二章 エピソード7
改めて踏み入れた放送室は、ひっそりと静まり返っていた。子供たちが学校にいる日中の時間帯にもかかわらず、そこだけがぽつんと取り残されていると言った感じだろうか。
放送機器のマイクの前には、放送委員の子供が書いたと思しき手書きの原稿が、無造作に置かれている。詳しく読むつもりはなかったが、ひと目でその日の給食の献立であることがわかった。
一見したところ、古い方の機器の電源ケーブルは将司が抜いたままになっていたし、屋上のスピーカーにつながる配線も、切り離した状態で残っていた。
将司は、念のために、古い放送機器の取り出しボタンを押した。機械仕掛けなので、そこだけは電源が通じていなくても、トレイを開けることができた。当然のことながら、中には何も入っていなかった。
その様子を、さっきから後ろにポツンと立ったまま、退屈そうに眺める男性職員。
「特に、前と変わったところはなさそうですね」
将司はそう言うしかなかった。
そのとき、カチッとスイッチが入る音がして、校舎内にチャイムが鳴り響いた。それは午前中の授業の終わりを告げるチャイムで、それを合図に校舎のあちらこちらから、子供たちの声が響きわたってきた。
「そろそろ、いいですか」
男性が言ったのとほぼ同時に、三人の子供が中に入ってきた。作業服に身を包んだ将司の姿を見て、機械の修理に来た人だと思った彼女たちは、とっさに「こんにちは」と、声を揃えてあいさつをした。
「こっ、こんにちは。君たちは、放送委員?」
「あっ、はい。そうです。今日は、水曜日なので、私たちが当番です」
一人の女の子が、はきはきと言った。その様子を見ていた別の女の子たち二人も、
「水曜日は、私たち六年二組の担当です」
「今日は、給食の献立の他に、クイズを出さないといけないので、忙しくって」
と、続けた。
将司は、彼女たちの様子を見ていて、明るくて朗らかな印象を受けた。でも、考えてみれば、自らすすんで放送委員を選ぶくらいなのだから、話すことが得意なのだろう。彼女たちが流す放送を聞きながら食べる給食は、さぞかし楽しいだろうなと、将司はふと思った。
「今日は、無理言ってすみませんでした」
放送室を出た将司は、男性職員に向かって言った。
「いえいえ、こちらも助かりましたよ。また何かあったらお願いしますよ」
男性は、表情一つ変えることなく、返事した。
将司が、玄関を出ようとしたとき、校舎内にさっきの彼女たちの声が響きわたった。
「これから、お昼の放送を始めます。今日の担当は……」
玄関の外は、秋の爽やかな空が広がっていた。




