第二章 エピソード6
将司が跡を継いだ電気店は、いわゆる『町の電気屋さん』だった。家電などの販売や取り付けを中心に、依頼を受ければちょっとした電気に関するトラブルにも対応した。フットワークの軽さを売りにて、大手の量販店ではできないきめ細かいサービスを提供していたので、町の人たちから重宝がられていた。
そんな将司のもとに、一本の依頼が入った。小学校のトイレの照明のセンサーが反応しないので、見て欲しいとのことだった。それまでに学校から修理の依頼を受けたことがなかったので、恐らく米倉が将司のことを、担当の事務職員に紹介してくれたのだろう。
学校と取引できるようになるのは、将司の店のような小さな電気店にとってはありがたい話だった。学校は、一般的に古い建物にあたるので、どこかしら不具合が日常的に起きてしまう。機器を全面的に取り換えるなど、大掛かりなことはできないにしても、不具合の個所を修理することぐらいなら、将司にだってできる。一回当たりの実入りは少なかったとしても、ちりも積もればなんとやらで、うまくやれば安定した収入源になるのだ。
依頼されたトイレのセンサーは、なんのことはなかった。天井から外してみると、裏側が真っ黒に焦げていたのだ。湿気の多いトイレの中で、ショートしてしまったのだろうか。それにしても、大惨事にならなくてよかったと思った。一歩間違っていたら、火災が発生していても、おかしくはなかった。
将司から原因を聞いた事務職員の男性は、ぎょっとした表情を浮かべた。
「このセンサー、まだつけて間もないのですがねぇ……」
恐らく、子供が暗いトイレを怖がったので、なけなしの予算を費やして新たに設置したのだろう。それをいいことに、配線をむき出しのまま天井裏にはめ込むと言う初歩的なミスを犯している。一体、どこの業者がこんな手抜き工事をしたのかを、よほど聞きたくなったが、すぐに止めた。他人のあらを探すよりも、依頼された仕事をきちっとこなすことの方が、自分の性に合っていると、将司は自分を納得させた。
「センサーは新しいものに交換しました。配線もきちんと処理しておきましたので、これで大丈夫かと思います」
事務職員の男性は、将司の受け答えに好感を持ったようで、トイレから玄関に向かう途中で、
「あなた、ここの卒業生なんですってね。頼もしいです。また、何かあったらよろしくお願いします」
と、述べた。
男性の言った『卒業生』と言う言葉が妙に気恥ずかしくて、将司は顔を赤らめながらぺこりとお辞儀した。
「あっ、そう言えば、あれからスピーカーのことは、変わりはないですか?」
ふと気になって、将司は訊いてみた。
それを聞いた男性の顔が、一瞬曇ったような気がした。
「あぁ、あのことですか……。いやね、夜中にスピーカーから音が聞こえるとか言うことはなくなりましたよ。あなたが、古いスピーカーの電源を落としてくれましたからね」
男性の言葉尻からは、何か別の問題でも発生しているというのだろうか。
「では、何か他に?」
男性は、視線を宙に泳がせた。部外者である将司に、学校の内情を話してもよいものかを、思案している様子だった。
「カセットテープですよ」
男性が、小声で言った。
「カセットテープ?」
「そう、カセットテープ。誰かが古い放送機器にセットするのです。最初は、校長がそれに気づいて、セットされていたカセットテープを外に出したみたいですがね。またしばらくして見てみると、同じカセットがセットされている……」
「子供のいたずらとか?」
「もちろん、放送室には委員会の仕事で、子供たちが入りますからね。担当の職員が子供たちに訊いたみたいです。でも、誰も知らないと言うのです。そりゃ、当然ですよ。今の子供には、カセットテープの使い方すらわからないんだから、テープを機械にセットすることだってできないでしょう」
男性の言った通りだと言わんばかりに、将司は大きく頷いた。
「あのう、もしよろしければ、もう一度、僕にあの放送室を見せてもらえませんか?」
将司は、思い切って訊いてみた。前に米倉から依頼を受けて、自分が関わったことがあっただけに、なぜか、放っておけないような気がした。
男性は、困ったような顔を見せた。できれば、この件には、あまり関わりたくないと言いたげな表情だった。しばらく悩んだ挙句、その後の放送機器の調子を将司に見てもらうと言うことで、しぶしぶ首を縦に振った。




