表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
放送室からのラブレター  作者: 松山 さくら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/22

第二章 エピソード4

「いやぁ、それにしても参ったぜ、あのときは……」

 淳が、魚の煮物に箸をつけながら、当時を振り返って言った。

「まさかの淳に、主役がまわってきた件だね。でも、淳は最初は嫌がっていたくせに、最後は見事に演じ切っていたじゃないか」

 淳をなだめるように言ったのは、直哉だった。

「そりゃ、俺だって、任されたからにはよ、ちゃんとやらないとって思った訳だけど……」

 そう言って、淳は里紗の方を向いた。里紗は、軽い笑みを浮かべただけで、その日は珍しく口数が少なかった。

「でも、結局、みんなで劇をやってよかったじゃん。お客さんたちの中には涙を流す人もいたし、僕たちの仲もあれをきっかけにさらに深まったみたいで、今もこうやって集まっているんだから」

 里紗を代弁するつもりで、将司が言った。あとで聞いたことだが、淳に主役を推したのは、学級委員長をしていた里紗だった。六年二組は、なんだかんだ言って、仲のよいクラスだった。そんなクラスメイト達には、小学校生活の集大成のような発表会の場で、仲間割れをして欲しくないと、里紗は思っていたのだ。だから、あの話し合いの後、里紗は米倉のもとを訪れて、淳のことを相談した。相談を受けた米倉も、考えていることは同じだったようで、意気投合した二人は、放課後遅くまで教室に残って、配役を決めたのだった。

「それにしても、あの『未来の六年二組』って台本、よくできていたよね。二十年後に、俺たちが再会して、お酒を飲みながら昔を懐かしむという筋書きなんて、今の僕たちとそっくりでしょ」

「そう言われてみれば、そうだよな」

 直哉が言ったことに、頷く淳。

「僕が会社の社長として社会に貢献するってのは、まだ早いかも知れないけど、淳が警察官になって町の平和を守る話とか、将司が実家の店を継ぐために、都会から戻って来るなんて話は、まさにその通りになっているもんね。それに里紗も……」

 直哉が里紗のことに触れかけた瞬間、将司の心の中を、すっと過るものがあった。でもそれが何であるのか、このときの将司にはわからなかった。

「ところで、あの台本って、誰が書いたんだったっけ?」

 大事なことを忘れたとでも言いたげに、淳が訊いた。

「えっと……誰だった?」

 直哉がそれに続く。

「確か、あの子だよ。ほら、僕の席の隣に座っていた……」

 将司はそう言って、かつての教室の中の光景を必死に思い出していた。いつも白いワンピースを着ていた。肩の下まで髪を伸ばし、きりっとした瞳の女の子。喉元まで、彼女の名前が出かかっていたのに、なぜか思い出せなかった。

 それもそのはず、彼女は六年生の途中から転校してきた生徒だった。もの静かな女の子だったと思う。休み時間も誰かと話すことなく、黙々と読書をしているような女の子。だから、将司たち男子から見れば、ちょっととっつきにくい感じで、いくらクラスの仲が良いとは言え、ほとんど一緒に喋ったことがなかったのだ。

「それって、佳代のこと?」

 里紗が、突然、口を開いた。

「そう、確か、そんな名前だったような……あっ、そうそう、里紗、放送委員で一緒だったんじゃない?給食の時間になると、よく教室からいなくなっていたから……」

 と、将司は閃いたように答えた。

「そう、私たち、放送委員だったんだよ。将司くん、やっと思い出した?」

「あぁ、うん……」

 思い出すもなにも、まともに話したことがなかったから、ほとんど記憶に残っていないのだ。将司の表情を見ながら、なおも里紗は続けた。

「それじゃ、あのことも覚えてないの?」

「あのことって?」

 その答えを聞いて、里紗は寂しそうな表情を浮かべた。

「いや、覚えていないのなら、いいんだ」

 いいもなにも、里紗が何のことを話しているのかが、さっぱりわからなかった。

 そんなやりとりを、どこか他人事のように、ぽかんと口を開けて見つめる淳と直哉。気がつけば、なんとなく、その場の雰囲気が白けてしまっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ