45 黄色はどこへ?
昼前に執事のアダンがやってきて、事件の続報を知らせてくれた。
「犯人の狙いが分からない以上、ロドルフォ様は現在のところ侵入の件を大々的に報告せず、まずは身内だけで調査するよう命じられました」
「……公爵様は今、どちらへ?」
「本日の執務のため、城へ。国王陛下にのみ概要を伝え、城下町で物取りが出ているかもしれないので警戒を強めるように、ということだけ進言なさるそうです」
アダンの言葉に、アマリアは眉根を寄せた。
(国王陛下の私兵や警邏にも犯人捜索を依頼すれば手っ取り早そうだけど……そうもいかないのかな)
貴族社会に疎いアマリアには分からないが、もしかすると公爵家とそりの合わない者たちから攻撃される隙を与えるのかもしれない。
「やはり指輪は、犯人が持って逃げたのでしょうか」
「おそらくそうかと。あの指輪は宝石の部分が非常に幅を取るので、隙間などに隠すことはできません」
「確かに、リングの部分のわりに宝石が大きかったですね」
母の絵にも同じ指輪が描かれていたが、母の細い指では支えるのが難しそうなほど大粒の青い宝石だった。
(……あ、そうだ。執事さんなら知っているかも)
「あの、アダンさん。今回の事件とは関係ないと思うのですが、お伺いしたいことがあります」
「なんなりとどうぞ」
「アダンさんは、母が公爵様と結婚している頃からこちらでお勤めになっているのですよね」
アマリアが問うと、アダンは目を瞬かせ、口ひげを撫でながら頷いた。
「それどころか、私は従僕時代から公爵家に勤めております。ご幼少であられたロドルフォ様の勉学の補助を承ったこともございます」
ということは、公爵家に勤めた年数も多いし、公爵との距離もかなり近いだろう。
「では、アダン様はご存じではないでしょうか。公爵様がかつて母に贈った、黄色のアクセサリーについて」
――一瞬、アダンの口元の皺がぴくっと引きつったのをアマリアは見逃さなかった。
「……黄色のアクセサリーでございますか?」
「ええ。母からちらっと聞いたことがあるのですが、昨日お邪魔した応接間にはそのような装飾品が見当たらなかったので」
「……申し訳ございませんが、私には身に覚えがございません。というのも、ランヘル伯爵家では夫が妻に贈る宝石は全て青と決まっているのです。ロドルフォ様がルフィナ様に贈られたものは全て、あの部屋に保管しております。黄色の宝石が付いた宝飾品は一切ございません」
思いがけず素っ気なく言われ、アマリアは少々不意打ちを食らいつつ言葉を重ねる。
「えっと……では、公爵様が母にこっそり贈ったということはあり得ないでしょうか?」
「先ほども申しましたように、ロドルフォ様はルフィナ様の思い出の品を全てあの部屋に集めてらっしゃいます。最愛のルフィナ様に贈ったものをロドルフォ様が忘れるわけがありませんし、あの部屋にないということは、本当にないのでしょう」
「……そうですか」
その後、「まだ調査が続くので部屋から出ないでください」と言い残し、アダンはいそいそと去っていった。
アマリアは腕を組んでアダンの禿げかけた後頭部を見送り――ぐるっと首を捻って背後を見やった。
「……どう思う? レオナルド、ユーゴ」
「あの執事、怪しいですね」
壁際に立ってアマリアとアダンのやり取りを見守っていたレオナルドは、はっきりと言った。彼の足元でぬいぐるみ遊びをしていた――ように見えるがちゃんと会話を聞いていたユーゴも、牛さんぬいぐるみを抱きしめながら頷く。
「おれもレオナルドに同意。でもさ、ママ。黄色のアクセサリーって何のこと?」
「二人には言ってなかったけれど、お父さんがお母さんに黄色のアクセサリーを贈ったみたいなの。お母さんが一度だけ言っていたことがあるから、もしかしたら公爵家に置いているかと思って」
「それさー、本当はあるんじゃない? さっきのおっちゃんも本当は知っているけど、隠そうとしたんじゃない?」
人間界に疎いユーゴだが、単純明快だからこそ彼の指摘は鋭い。
「あのおっちゃんさー、『あるかもしれないけど分かんない』じゃなくて、『ない』って言ってたじゃん。おれがあのおっちゃんだったら、他人の考えていることなんて分からないから、絶対ないとは言い切れないなぁ。『おれは知らないけど、実はあるかもしれない』って思うよ」
「……そうよね」
頬に手を当て、アマリアはぎゅっと眉根を寄せる。
持ち出された指輪もそうだが、母が言っていた「黄色のアクセサリー」の謎も増えた。ないならないでアマリアも諦めがついたのだが、先ほどのアダンの様子からして、「黄色のアクセサリー」は存在するのではないか。
(なんだろう……指輪と黄色のアクセサリー、無関係だとは思えない……)
「公爵様に直談判した方がいいかしら」
「それは分かりませんよ。公爵様の側近であるアダン殿が断固として『ない』と言い張りましたし、おそらくアダン殿は今夜帰宅される公爵様にアマリアさんの話を伝えるでしょう」
「そこにしつこく問いつめるのは、指輪事件で揉めている今、良策とは言えないわね」
なぜアダンがアクセサリーを「ない」と断言したのかは分からないが、アマリアたちが首を突っ込めば公爵の機嫌を損ねるかもしれない。ただでさえ母の遺品の一つが奪われている今、公爵を刺激しかねない行動は取るべきではないだろう。
「まあ、黄色のアクセサリーの件を後回しにしても、あの執事は怪しいですね」
「えっ、侵入者のこと?」
「なんとなく、ですがね。……この事件、身内の犯行を疑った方がいいかもしれません」
レオナルドの呟きに、アマリアは苦い唾を呑み込んだ。




