46 指輪の行方①
「現場を見させてほしい」と申し出ると、予想通り芳しくない反応が返ってきた。
トビアスとオリビアは反対で、その理由に「あなた方が疑われるかもしれないから」と言っていた。
だが、アマリアたちを応接間に通してくれたのは公爵夫人だった。
「旦那様にはわたくしが説明します。何重にも身体検査を受けていただくことになりますが、それでもよければ。……アマリア様にも、知る権利はありますからね」
夫人が震える声でそう言うと、トビアスもオリビアも黙ってしまった。
子どもだからということでユーゴは部屋に置いておき、アマリアとレオナルドは再び真っ裸にされた上に、夫人が用意した白いローブを着て応接間に向かった。手にも指定された手袋を嵌めていて、靴も柔らかいルームシューズを履くよう命じられた。そうして、「中のものには絶対に触れないように」と念を押された上で、例の応接間を見に行くことが許されたのだった。
アマリアは指輪と黄色のアクセサリーについて改めて調べておきたいと思ったからで、レオナルドはアマリアの護衛兼、「ちょっと気になることがあるので」ということで付いてきた。
公爵夫人に連れられて、アマリアたちは応接間を訪れた。昨日の午前中に入った際はしんとしていて静謐な雰囲気のある空間に感じられたが、物取りにあった今はひっきりなしに人が行き来していて、母の遺品を奉る場所だというのに騒がしかった。
「あの方がルフィナ様ですか……」
レオナルドが、壁に掛けられた母の絵を見て感嘆の声を上げている。母が死んでからレオナルドが孤児院にやってきたので、彼が母の姿を見ることはなかったのだ。
「……アマリアさんとよく似てらっしゃいます」
「よく言われるわ」
「どちらもお美しいですが、僕はやっぱりアマリアさんの方が可愛らしいと思いますね」
「あ、ありがとう」
さらっとのろけたからか、作業中の使用人や公爵夫人がくすっと笑った気がした。
ざっと室内を見たところ、窓ガラスが派手に割れ、ガラスケースも砕けていること以外、昨日と変わった様子はない。夫人の案内で二人はそろそろと足を進め、ガラスケースの前までたどり着いた。
「レオナルドさんはご存じでないでしょうが、ここに指輪が置かれていました。旦那様がご結婚の際にルフィナ様に贈られた指輪です」
夫人はレオナルドに説明しているが、アマリアも初耳の情報だった。
(結婚指輪だったんだ……だからあんなに派手で宝石も大きかったのかな)
長方形のガラスケースは、ちょうど指輪のあったあたりのみほぼ円形に砕けていて、窓ガラスも鍵のある周辺だけ丸く割られているので、最小の労力で指輪だけを奪えるようにしたのだろうと予想できる。
念のため、アマリアは台座に残された他の宝飾品も確認した。
公爵が母に贈ったという宝飾品は、指輪を除いて合計八つ。ネックレス系が三つとブレスレットが二つ、髪飾りが二つとイヤリングが一組だった。
(どれも……どう見ても青色だよね)
触れるわけにはいかないので角度を変えながらじっくり見てみるが、母が大好きだった黄色に該当する部分は見当たらない。やはり、「黄色のアクセサリー」はここにはないのだろうか。
レオナルドは室内をきょろきょろ見ていたが、やがて「もう大丈夫です」と言ったので、夫人に礼を言って部屋を出た。空き部屋で服を着替え、オリビアに付き添われてユーゴの待つ客間に向かう。
「それにしても……災難ですね。まさか、公爵邸に強盗が入るなんて」
アマリアが言うと、オリビアもしゅんとして頷いた。
「はい……実は、強盗が入って指輪が奪われたということを聞いて、お義母様がとても取り乱されたのです」
「えっ、公爵様ではないのですか?」
アマリアの問いに、オリビアは肩をすくめた。
「わたくしとトビアス様は夜明け前にお義父様に呼ばれ、その場でお義母様と一緒に話を伺ったのです。お義父様も使用人から報告を受けたときには悲しまれたと思いますが……」
「公爵夫人はルフィナ様をとても尊敬されていたのですよね。あの応接間の鍵も管理されていたということですし、さぞお心を傷められたことでしょう」
レオナルドが言ったので、オリビアは頷いた。
「最初はわたくしも驚きました。普通、後妻が前妻を敬うことなんてあり得ませんから。しかしお義母様はルフィナ様のことを心から慕われているようで、日頃からよくお一人でルフィナ様の絵をご覧になっているそうですの。今回も……指輪が奪われたと聞かされて、お義母様は泣き崩れてらっしゃいました」
「そんなになのですか……」
その後、部屋に戻ると続き部屋にいたユーゴが駆け寄ってきて、アマリアにぎゅっと抱きついてくる。
「ママ、レオナルド、何か分かったことでもあるの?」
「そうね……」
ちらっとレオナルドを見ると、彼は難しい顔で視線を逸らした。
「……僕なりに色々考えたことがあるのです。相談してもいいですか」
「もちろんよ」
三人はリビングに移動してソファに座った。状況を察したらしいユーゴが空間魔法を工夫し、アマリアたちの会話が室外に漏れないように工夫してくれた。空間魔法とは本当に奥深い能力である。
ユーゴを抱えたアマリアとレオナルドが向き合うと、レオナルドは硬い表情のまま口を開く。
「まず、先ほど応接間を確認した感想ですが……ガラスの飛散具合からして、窓ガラスはバルコニー側から割ったと見て間違いないでしょう」
「確かに、破片は室内の方に飛び散っていたわね」
アマリアもざっと見たが、ガラスの破片はバルコニー側ではなく室内側に散っていた。ということは、バルコニーから侵入した者がガラスを割り、その隙間から手を差し込んで鍵を開けたということだろう。
「それで、指輪を取ってそのままバルコニーから逃亡したのよね」
「もちろんそれが有力でしょう。……しかし、元々内部にいた人間が外部犯を装うため、バルコニーに出てガラスを壊し、そのまま廊下に出て部屋を施錠した――というのも考えられるのです。たとえば……普段から鍵を持っているという、公爵夫人とか」
淡々と紡がれたレオナルドの言葉に、アマリアははっとした。
(もしかして、さっき言っていた「身内の犯行」の可能性がある、ってこと……?)
それを疑うのは、公爵家の人間を疑うということ。非常に危険な発想だが、公爵家の人間でないレオナルドだからこそ呈することのできる可能性なのかもしれない。




