『落胆、期待、落胆』 管理人側視点
そこまで話したところで、シロワンミ氏は、にこやかな笑みを浮かべながら「突然ですが、ここでクイズです」といった。
「わたしがお寺で生活するようになった頃から、参拝者数が急激に増えだしました。さて、その理由は、一体何だったのでしょうか?」
答えは一発でわかった。でもそれを口にするつもりはなかった。
深い川は静かに流れる。能ある鷹は爪を隠す。
シロワンミ氏に対して抱きはじめた僕のイメージが、つまらないクイズひとつで吹き飛んでしまったからだ。
もちろんイメージの崩壊は、シロワンミ氏とは無関係。原因は、僕の人を見る目のなさ。でもそのことは棚に上げて、シロワンミ氏へのツッコミを開始した。
何だよ、おい。本質的には、うぬぼれ屋さんだったってことなの? あんたって人は。
自分は、他の人間とはぜんぜん違うんです。昔からずっと、そうでした。
それを伝えるための前振りだったの? 今の話。
まさか最初の口下手、あれは、自分をより大きく印象づけるための演技だったんじゃないでしょうね。若かりし頃、ロックバンドのベーシストだったという、シロワンミさん。
舌打ちしたい気分のまま、バーシュウレインの三人に視線を向けると、ここは、あなたの出番ですよ、といいたげなカモシンの笑顔が待っていた。
冗談じゃない。お断り。絶対に。
「僕に遠慮はいりません。お先にどうぞ」
先手を打って促してみたが、あっさりかわされた。
「このような話は、ちぎれ雲さんの得意分野でしょうから」
ベッキー、ガウチも、笑みを浮かべて同意を示した。
バーシュウレインの三人は、今でも僕のことを、不思議な能力の持ち主だと誤解している。いずれその誤解を解いてやらなければならないが、それは、今ではない。
となれば、場の雰囲気を壊さないためにも、僕が答えるしかなさそうだ。
「こんなもの、クイズにもなりませんよ」内面の感情を隠すため、高いトーンでいった。「吹聴したんでしょうね、炭焼きのお爺さんが。自分の命が助かったのは、ご住職様が連れてきた子供のおかげ。あの子には不思議な力が宿っている。騙されたと思って、一度会ってみろ、なんてことを喋りまくったんでしょうね、あちこちで。その手の話は、あっという間に巷に広まると思います。時代とか土地柄に関係なく」
いいながら、シロワンミ氏の術中にはまっている自分に嫌気がさし、投げやりな口調になってしまったが、内容には確信があった。
しかしシロワンミ氏は、ちょっと気落ちしたような表情を浮かべると、僕から視線を外した。
「他の意見は、ありませんか?」
「他の?」
僕が眉をひそめると、バーシュウレインの三人も、怪訝そうな表情を浮かべた。どうやら、彼女らも、僕と同じ程度のことしか思いつかなかったらしい。
「間違っていたんですか? 僕の推理」
おそるおそる訊ねると、シロワンミ氏は明るく笑った。
「半分当たり、半分外れ。そんなところでしょうか」
そのあと彼は、探るような目で僕たちを見回した。でも、だれも言葉を発しなかった。
「言いふらしたのは、炭焼きのお爺さんに間違いありません。でも、お爺さんの口から出たのは、わたしではなく、ご住職様の名前でした。俺が助かったのは、ご住職様のおかげ。ご住職様には、不思議な力が宿っている。騙されたと思って、寺に行ってみろ、だったようです」
予想とは違う流れに、僕はあわてて訊いた。
「シロワンミさんのことは、どんなふうに?」
戸惑いの声のまま訊くと、シロワンミ氏は嬉しそうに目を輝かせた。
「お爺さんの記憶にあったのは、ご住職様だけだったようです」
「でも、仏壇のイチジク云々の経緯は、覚えていたんでしょう? そのお爺さん」
「いえ」シロワンミ氏は軽やかに首を振った。
「その日の記憶に、わたしの姿はなかったようです」
「あのう」僕は片手をあげた。
「そのお爺さんの目に、何か変わったものが見えたという話はなかったんですか? たとえば、ご住職様の横に、黄金色に輝く物体があったとか、部屋の中が急に明るくなったとか……」
するとシロワンミ氏は、意味ありげな笑みを浮かべた。
「いまちぎれ雲さんが、おっしゃったとおりのことを、ご住職様が、お爺さんにぶつけたことがあるんです」
僕を含めた四人の聞き手は、思わず息を止めて次の言葉を待った。でも返ってきたのは、、期待していた種類のものではなかった。
「それに対する答えはありませんでした。そんなことより、ほかの連中も助けてやってくれ。それだけでした」




