12話 監禁部屋での拘束
完璧だったはずの微笑み。
それが今は、恐ろしいほど美しく歪んで見えた。
「ディラン……殿下……」
「その通りだよ、エレナ。君の推測はすべて正しい」
ディラン殿下は、絵画の感想でも語るかのように、淡々と口を開いた。
「カールの侯爵家に債務の返済を迫らせたのも、彼らを資金難に陥らせて追い詰めたのも……全部、私が裏で糸を引いていたんだ」
「そんな……! では、カールが私をあの別邸へ呼び出したのも……!」
「ああ。焦ったあの男なら、必ず暴走して君を強引に手に入れようとする。そう分かっていて、影を使ってあいつの側近に助言を与えさせた。『エレナを閉じ込めれば、すべて元通りになる』と」
頬を冷たい汗がつたい、背筋が一気に凍りついていく。
私を襲ったカールの狂気すらも、目の前にいる青年が完璧に書き上げた脚本の一部だったのだ。
「なぜ……なぜそんな恐ろしいことを……! 侯爵家も、私の実家も、殿下の手の上で踊らされていたというのですか……!?」
「彼らが自業自得の悪党だったのは事実だよ。私はただ、彼らの強欲さを少し後押しして、自滅の引き金を引いてあげただけさ」
さも平然と、身の毛のよだつ話を、彼は口元を和らげながら喋り続ける。
その落差に、私はただ戦慄して震え上がるしかなかった。
「目的は一つ。……君を手に入れるためだ、エレナ」
「私を……手に入れる、ため……?」
「そうだよ。君をあの実家から引き剥がし、絶体絶命の危機に追い込み、私が君を救い出す。そうすれば君は私に深く感謝し、私しか頼れなくなる。……すべては、君を私の隣に繋ぎ止めるための舞台劇だったんだ」
「そんな……っ!」
私は彼の手を払いのけ、ソファから立ち上がり、思わず後ろへ退く。
あんなにも温かく、私を助けてくれたと思っていた手が、実は私を追い詰めるための籠とは信じられなかった。
「来ないで……! 触らないでください……!」
私は部屋の出口である扉へ向かって、ドレスの裾を振り乱しながら駆け出そうとした。
「――逃がすわけないだろう?」
足を踏み出した瞬間、視界が宙で反転した。
立ち塞がったディラン殿下によって、体を軽々と抱き上げられたのだ。
「っ……!? は、放してください! 殿下、放して……!」
「大人しくしてくれ、エレナ。君に酷いことはしたくないんだ」
死に物狂いで抵抗しても、私の手など鍛え上げられた男性には何の障害にもならなかった。
ディラン殿下は私を抱き抱えたまま、私の声など聞こえていないかのように部屋の奥に向かう。
そして普段は決して開けられることのない、隠し扉の先へと足を踏み入れた。
そこに広がっていたのは、何重もの厚いカーテンで光がさえぎられ、外界と断絶された部屋だった。
「嫌……嫌です! ここから出してください!」
部屋の中央にあった、ベッドの上に優しく降ろされる。
逃げ出そうと身を起こした私の体を、殿下は上から覆いかぶさるようにしてベッドへ押し戻した。
「……逃げたいだろうね。なら、こうするしかない」
殿下が胸元から取り出したのは、銀色に輝く金属の鎖だった。
「な……何を……っ!?」
「安心していい。君を傷つけるものじゃない」
カチャリ、という金属の重なる音が響く。
私の足首に装着されたのは、凍りつくような感触のアンクレットだった。
「これは魔法具の鎖だ。これをつけている限り、君はこの部屋から一歩も外に出ることができない。扉を開けようとすれば、足が痺れて動かなくなる」
「何をするんですか……! 私を、この部屋に閉じ込めるつもりなのですか!?」
「そうだよ。……二度と、私の目の届かない場所へ逃げられないようにね」
足首を蝕む冷たい重みが、毒のように心を侵していく。
自由をもぎ取られた絶望感。
そして裏切られた虚無感にさいなまれ、私の目から涙がこぼれ落ちた。





