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【存在強奪】 ~やけくそでダンジョンに素手特攻したら、存在もスキルもステータスも奪える能力に目覚めました~  作者: 仁科異邦


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模擬戦2


 背後で見守っていたアイリスやヒナが、あまりの熱量と魔力に後退するほどの、純粋な『死』の奔流。 まともに食らえば、いくら体力があろうと無傷では済まない。

  だが、俺は一歩も引かなかった。 俺の心臓の奥底で、歓喜に打ち震える。


「……証明してやるよ、剣崎。俺の日常を脅かすモンは、魔法だろうが理不尽だろうが……全部俺が喰らってやるってなッ!」

 俺は右腕を真横に振りかぶり、限界まで【暴食】の力を引き出した。


「喰らい……尽くせェェッ!!」

 俺の右腕から、巨大な黒い『アギト』が顕現する。 剣崎の放った氷と炎の絶大な竜巻。その魔法の奔流と、暴食の黒炎が、広場の中央で正面から激突した。


 ギュルンッ!! と、世界から音が消えた。

 暴食の黒炎は、剣崎の魔法と相殺するのではない。氷の冷気も、炎の熱量も、その魔力の概念そのものを『餌』としてバリバリと喰い千切り、飲み込んでいく。


「なっ……俺の複合魔法が、喰われている……!?」


 剣崎の驚愕の声。 だが、剣崎の魔法の出力は、俺の想定を僅かに超えていた。アイリスとの長年の連携で培われた、極限まで魔力ロスをなくした超高密度の魔法剣。


 暴食の黒炎が魔法を喰い尽くすよりほんの僅かに早く、圧縮された破壊のエネルギーが俺の懐へと届こうとしていた。


「チェックメイトだ、誠ッ!!」

 剣崎が、勝利を確信して笑う。俺の黒炎を囮にし、その奥から彼自身が長剣を構えて突っ込んできていたのだ。

(……お前は頭が良すぎるんだよ、剣崎。だから、論理の枠を超えた事象を計算しきれねえんだ)


 俺は、迫り来る剣崎の切っ先と、残った魔法の奔流を前に、静かに、しかし絶対的な殺意をもって言葉を紡いだ。


「――【存在剥離そんざいはくりぜつ】」

 俺の左手から放たれた、不可視の波動。 それは、物質を破壊する物理攻撃ではない。対象の『概念そのもの』を、この世界から切り取るように消去する権能の極致。


 俺は、それを剣崎に向けるのではなく、俺と剣崎の間に挟まっていた『複合魔法剣のエネルギーそのもの』と、『剣崎の長剣の刀身(魔力部分)』だけにピンポイントで焦点を合わせた。


パキンッ。

 ガラスが割れるような、ひどく軽い音が響いた次の瞬間。、剣崎の絶対の自信作であった氷炎の奔流が、爆発することもなく、文字通り『この世から完全に消失』した。


「――は?」

 突進の勢いそのままに、俺の懐に飛び込んできた剣崎。 だが、彼の手にある長剣からは一切の魔力が消え失せ、ただのナマクラな鉄の棒と化していた。


 俺は、完全に無防備になった剣崎の顔面に向かって、黄金のオーラを纏った右拳を全力で振り抜き――。


 ピタリ、と。 剣崎の鼻先、わずか一ミリのところで、その拳を寸止めした。 俺の拳から発生した凄まじい風圧だけが剣崎の髪を激しく揺らし、背後のギルドの窓ガラスを全て粉々に吹き飛ばす。


「…………」

 剣崎は、俺の拳を目の前にしたまま、目を見開いて完全にフリーズしていた。 数秒の沈黙の後。 彼は、手の中でただの鉄の棒と化した剣を見つめ、それから俺の顔を見て……。


「……ふっ、ははははははっ!!」

 堪えきれないように、腹を抱えて大爆笑し始めた。


「負けだ、俺の完敗だよ! なんだよ今のデタラメな力は! 俺の複合魔法が、相殺されるどころか『無かったこと』にされたぞ!? あんなもの、魔力演算でどう計算しろって言うんだ!」


「だから言ったろ。お前の計算式が通用するような、お行儀のいいステータスじゃねえってな」


 俺が拳を下ろし、ニヤリと笑うと、剣崎は涙目になるほど笑い終えた後、深く、満足げに息を吐いた。


「……ああ、証明完了だ。お前は、俺の想像を遥かに超えるバケモノに育ってたよ。誠……よく、ここまで這い上がってきたな」


 剣崎が、長剣を鞘に収め、俺に向かって右手を差し出してきた。 その手は、Sランクの頂点に立つ者としてではなく、共に泥水をすすり、共に絶望を乗り越えてきた、一人の『親友』としての手だった。


「……俺一人でここまで来たわけじゃねえよ。お前のそのウザい善意にも、背中を押されてたからな」


 俺は軽口を叩きながら、その手をガッチリと握り返した。 乾いた、しかし力強い音が広場に響く。


「ちょっと傑ッ! なんですか今の馬鹿げた戦いは! もし結城さんの拳が止まっていなかったら、貴方の頭ごと吹き飛んでいましたよ!?」


 アイリスが、血相を変えてこちらへ駆け寄ってくる。その表情には、相棒を心配する強い怒りと焦りがあった。


「すまない、アイリス。だが、これでハッキリした。……こいつ(結城誠)という【最大のイレギュラー】を組み込めば、神宮寺の特別施設への突入作戦……成功率は一気に『100%』に跳ね上がる」


「……もう。本当に、あなたたちは計算外の馬鹿ばかりなんですから」

 アイリスが呆れたようにため息をつくが、その瞳にはどこか安堵の色が浮かんでいた。


「さて、ウォームアップは終わりだ。……行くぞ誠、アイリス、ヒナ、まどか」


 剣崎が、銀縁の眼鏡を押し上げ、再び冷徹な顔へと戻る。


「お前の可愛い妹と、大切なギルドの連中を……神宮寺のクソみたいなルールの真ん中から、強引に奪い返しに行くぞ」


「ああ、そうだな」

 Sランク魔法剣士の完璧な頭脳と、規格外の男。 二人が並び立ち、俺たちは、Genesisの特別施設へ向けて、反逆の狼煙を上げた。


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