作戦会議2
「誠、何を出し惜しみしているんだ。作戦会議に私情は不要だ。……まさか、ステータスの出し方を忘れたわけではあるまいな?」
「馬鹿にすんな。……前見た時は300000くらいあったんだ、ホントだぞ?」
俺はため息をつき、空中に向かってスッと右手をスワイプした。 ピポッ、という軽い電子音と共に、俺のステータスボードが空中に大写しになる。
「「「「…………」」」」
その瞬間。 ギルドのエントランスを、奇妙な沈黙が支配した。
剣崎、アイリス、ヒナ、まどかの四人が、ホログラムの数値をまじまじと見つめ、ポカーンと口を開けてフリーズしている。
そこに表示されていたのは、あまりにも『しょぼい』、予想外すぎる数値だった。
【名前】 結城誠
【ランク】 Cランク(事務員)
【クラス】 なし
【Lv】 ――
【HP】 540
【MP】 30
【筋力】 520
【耐久】 480
【敏捷】 510
【知力】 20
【運】 15
【主なスキル】
・超速再生
♦︎
「…………は?」
最初に声を絞り出したのは、日本最強のSランク冒険者である剣崎だった。
剣崎は、かつてないほど困惑した声で俺を問い詰めた。
「誠……お前、このふざけた数字はなんだ?」
「いや、だから俺もよく分かってねえんだって」
『ぷぷっ! マスター、これは……!』
脳内で、トラ子が吹き出していた。
『マスターの物理ステータスがシステムの表示限界を超えて完全に【桁落ち(オーバーフロー)】
しています。今は500と表示されてますけど、これ本当は後ろに『0』が3つ付きます』
(なんでそれが500に……ってか、なんで知力が『20』で、運が『15』のままなんだよ! そこはオーバーフローしてねえじゃねえか!)
『それは変わらず、マスターの本来のポテンシャルと、日頃の行いの結果ですね』
(うるせえよ!)
『あ、大罪スキルの名前が表示されてないのも、システムがエラーを吐いて読み込めてないだけとなります。ただ超速再生だけは、一般枠のスキルとして認識されています』
俺が脳内で漫才をしている間にも、現実世界の四人のドン引き(と困惑)は続いていた。
「……ごひゃく……?」
ヒナが、自分の1万4千の筋力ステータスと見比べながら、ガクンと膝をついた。
「結城さん、私より……っていうか、そこら辺のCランク冒険者より全然低いじゃないですか! なのに、あんなに強いなんて……!」
「HPが540……。MP30、知力20……これでは初級魔法の詠唱すら不可能ですね。スキルも超速再生だけ……」
アイリスが、震える手で眼鏡を直すような仕草をしている。
「……誠。俺たちの命が懸かった作戦会議だ。300000あったなんて嘘はよくないぞ?」
剣崎が、ギリッと奥歯を噛み鳴らし、俺の胸ぐらを掴まんばかりの勢いで詰め寄ってきた。
「い、いや、嘘じゃねえって!」
「いいか、この日本でトップに立つSランクの俺ですら、全ステータスのアベレージは2万程度だ。……お前が、この【500程度】の貧弱なステータスで、マキナの群れを圧倒できたはずがないだろうッ! 虚偽の申告は良く無い」
「だから虚偽の申告なんてしてねえよ!(ただステータス表示がぶっ壊れてるだけだけどな!)」
俺が必死に弁解するが、理詰めと効率を信条とする剣崎にとって、この低すぎる数値でSランク以上の戦闘力を発揮している現状は、到底受け入れられるものではなかった。
彼は深く息を吐き、そして、腰の長剣の柄に手を当てた。
「……そうか。虚偽ではなく、お前の『本当のステータス』だと言うんだな?」
「今表示されている数字がこれなんだから、しょうがねえだろ」
「ならば……その強さを見せてくれないか」
剣崎の全身から、先ほどまでの冷静な空気が一変し、肌を刺すような凍てつく殺気(剣気)が放たれた。
「誠。お前がどれほどの力を手に入れたのか……俺の剣で、直接『テスト』してやる」
「……はあ!?」
作戦会議のど真ん中で、Sランク魔法剣士から唐突すぎる【模擬戦】の申し込み。
「ちょ、ちょっと待ってよ傑! 今は葵ちゃんを助けに行くのが先決じゃ……!」
「止めないでくれ、アイリス。……これは、俺の戦術家としての『意地』だ。本当の実力を確認してからでなければ、俺は安心して背中を預けられない」
剣崎の瞳には、親友の無事を喜ぶ感情の裏側に、「俺の知らないところで、コイツはどんなデタラメな強さを手に入れたんだ」という、抑えきれない対抗心(ライバル心)がメラメラと燃え上がる。
「……チッ。しゃあねえな」
俺は、立ち上がる。
「いいぜ、剣崎。てめえのそのお行儀のいい『最適解』が、俺にどれだけ通用するか……存分に試してやるよ」
最愛の妹を救うための決戦を前に、日本最強の剣士と、元適性無しの俺による、ルール無用のド派手な「ステータス証明戦」が、今まさに開始しようとしていた。




