ギルドの危機12
「結城さん……もしかして、師匠に連絡したんですか?」
ヒナが、少し驚いたような、それでいてどこか安堵したような表情で声をかけてきた。
「ああ。神宮寺の【虚飾】の権能や、連れ去られた連中の居場所を割り出すには、アイツの力が絶対に必要だ。……それに、妹を攫われて黙ってるような奴じゃないからな」
「師匠が来てくれれば、百人力ですね!」
俺たちが息を整えながら待つこと、数十分。
キキィィッ!! ギルド前の広場に、黒塗りの高級SUVが猛スピードで滑り込み、急ブレーキをかけて停車した。
車のドアが乱暴に開き、一人の男が降りてくる。 スマートな体格に、オーダーメイドのシックな戦闘服。細身の長剣を腰に差し、知的な銀縁の眼鏡の奥で、鋭い眼光を放つ男。 Sランク冒険者、『最適解の魔法剣士』剣崎傑だった。
「誠ッ!!」
「剣崎!」
俺たちは、マキナの残骸が転がる広場の中央で、数年ぶりの再会を果たした。
剣崎は、ボロボロのジャージ姿の俺を見て、一瞬だけ目を見開いた後、ふっと口角を吊り上げた。
「……相変わらず、泥臭くて計算外の生き方をしてるみたいだな。この無数のマキナの残骸……お前一人でやったのか?」
「一人じゃねえよ。後ろの厄介な二人に手伝ってもらって、やっとだ」
俺が背後のヒナとまどかを指差すと、剣崎は眼鏡の位置を直し、冷静な瞳で周囲の状況を演算し始めた。
「師匠……! 遅いです!」
ヒナが、師である剣崎を見て駆け寄る。
「ヒナ。お前が苦戦するとは、相手のは相当なレベルだったようだな。……それに、そちらの女性は……」
「柊まどかよ。『黒犬』の幹部、と言えば分かるかしら。今は誠の……そうね、専属のパートナーみたいなものよ」
まどかが蠱惑的に微笑むと、剣崎は少しだけ眉をひそめたが、すぐに思考を切り替えた。
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「状況は最悪だ。神宮寺はすでに、国家の中枢を完全に掌握しつつある。……それに、お前の言っていた【虚飾】の権能。俺の中東での調査でも、ヤツが『世界の認識を書き換えている』という痕跡は掴んでいた」
「お前も知ってたのか」
「ああ。論理的にあり得ない現象が多発していたからな。……奴は、単なる能力者じゃない。この世界の根幹に干渉する『バグ』そのものだ」
剣崎は、腰の長剣の柄に手を当て、殺気を放つ。
「葵や、他のギルドの連中が連れ去られた『特別施設』。……俺の【魔力演算】と、中東で得たGenesisの魔力波長のデータを照合すれば、おおよその場所は割り出せる。だが……」
「だが、なんだ」
「施設には、ここ(ギルド)とは比較にならない数のマキナと、神宮寺の側近たちが待ち構えているはずだ。俺の計算では、正面からの突入の成功率は、現状の俺たちの戦力では『5%未満』だ」
5%未満。 それは、常に最適解を求める剣崎にとっては「絶対に行くべきではない」という死の宣告に等しい。
「……そうかよ」
俺は、ニヤリと笑った。
「だが、俺の計算じゃ、成功率は常に100%だ。……行くぞ、剣崎。お前のその完璧な計算式に、俺という『最大のエラー』を組み込んで、神宮寺のクソみたいなルールごと、全部喰らい尽くしてやる」
俺の狂気じみた宣言に剣崎は、かつて俺が彼の善意を突っぱねた時のように、呆れたような、けれどどこか嬉しそうなため息をついた。
「……お前のその非論理的な執念だけは、何度計算しても答えが出ない。仕方ない……今回だけは、お前のその『エラー』にベットしてやるよ」
絶対の最適解を求めるSランク魔法剣士と、理不尽を喰らい尽くす規格外の元事務員。 数年の時を経て、決して交わるはずのなかった二つの極端な力が、今、世界のルールをぶっ壊すために、再び手を結んだのだ。




