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【存在強奪】 ~やけくそでダンジョンに素手特攻したら、存在もスキルもステータスも奪える能力に目覚めました~  作者: 仁科異邦


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ギルドの危機10



 ただならぬ気配に、弾かれたように顔を上げた。

(おい、どういうことだ。なんでアイツは、俺の持ってる怠惰の大罪スキルが使えたんだ?)


 問いかけに、グラオが唸り声を上げる。


『……奴があの力を使えたのは、間違いなく【虚飾きょしょく】の権能だ』


『ああ、間違いない。まさか神宮寺とか言う人間、【傲慢】の権能だけではなく、【虚飾】の権能までをも現世に引きずり出しているとはな』


 グリ子は、深い絶望を孕んだため息をつき、そして、信じられない言葉を口にした。


『……主よ。今回ばかりは、相手が悪すぎる。早急にこの国から逃げる手立てを考えよ。……わらわ達の、負けじゃ』

(負け……!? ふざけるな、何勝手に諦めてやがる!!)


 俺は納得がいかず、心の中で激しく噛み付いた。 どんな強敵だろうと、俺は日常を絶対に手放さない。それを一番近くで見てきたグリ子が、戦う前から白旗を上げるなどあり得ない。


(なんで俺たちが負けるんだ!? アイツが大罪スキルを使ったからか? なら、こっちだって大罪スキルを三つも持ってるんだ、押し負けるはずがねえだろ!)


『……主は、根本的に事態の異常性を理解しておらん』


 グリ子は、諭すように詳しく説明を始めた。


『よいか。本来、一つの権能につき、世界に干渉できるルールは『一つ』しか存在しない。例えば、神宮寺が宿している【傲慢】のルシファーの本来の権能は、絶対的な『言霊コマンド』によって他者を支配し、ルールを強制する力じゃ』

(言霊……だからアイツは、あんな狂った法律で世界を縛り付けようとしてるのか)


『うむ。もちろん、そこから存在剥離の様に派生した力はあろうが、基本的には一つの大罪につき、一つのルールしか行使できん。』


 グリ子は一度言葉を切り、さらに声を低めた。

『それにな、主よ。何より異常なのは、その【怠惰】の権能は、今、お主が所持しておるという点じゃ』

(……ああ、そういやそうだな。俺の手元にスロ子のコアがある)


『大罪のコアは、その唯一無二の保有者の魂と深く結合し、その意志によってのみ力が解放される。……お主という正規の保有者が存在しておるのに、それを宿しておらぬ獅堂ごときが、その権能の力を引き出し、行使するなど……世界のシステム上、絶対に不可能。断じてあり得んことなのじゃ』


 そうだ。俺が持っている力を、俺以外の人間が、使えるはずがない。それが根本的なルールのはずだ。

(だが、アイツは実際に使ったぞ! しかも、長官から与えられた力だと言っていた!)


『それじゃ。お主という保有者がおるのに、他者がその権能を使えた……。それこそが、神宮寺という男が、単なる傲慢の保有者などではなく、傲慢の悪魔、ルシファーそのものとして現世に『顕在化』している最悪の証拠なのじゃ』


『虚飾の権能とは偽りの事実を、この世界のシステムに『真実』として強制的に誤認させる、最悪の力じゃ。……例えば、「獅堂は、結城誠が保有する怠惰の権能の力を、一時的に行使できる」という『嘘』を、虚飾の権能で世界に上書きする。そうすれば、システムが騙され、本来お主にしか使えないはずの権能の力が、例外的に引き出せてしまう』


 俺の背筋に、氷のような悪寒が走った。

 嘘を真実にする力。そんなデタラメな権能があれば、俺がどんなに強大な権能を抱え込もうが、神宮寺の一言で全てを嘘にされ、俺自身が世界のルールから排除される可能性すらある。


『だが、この【虚飾】という規格外の権能は、数ある大罪の中でも唯一、ルシファー自身しか扱うことができない絶対不可不可侵の力じゃ。他の悪魔がどう足掻いても、この権能だけは使えん』


 グリ子の声が、決定的な絶望を告げる。

『……それが、獅堂という単なる部下を通じて行使された。これが意味することは一つ。神宮寺は、ルシファーのコアを取り込んで力を得たのではない。……ルシファーという大悪魔の魂そのものが、神宮寺の肉体を完全に支配し、この現世に完全に受肉(顕在化)しておるということじゃ』


 言葉を失った。

 俺が相手にしようとしていたのは、国家権力を掌握した狂人などではない。


 ルールを書き換え、嘘を真実とし、俺の保有する権能の力さえも部下に分け与えることができる、完全無欠の『魔王』そのものだったのだ。


『奴は、虚飾でルールを書き換えられれば、わらわたちの【強欲】や【暴食】すら、無効化される可能性がある。……だから、負けだと言ったのじゃ、主よ』


 静まり返る精神世界。

 グリ子も、グラオも、そしてトラ子やスロ子でさえも、絶対的な力の差を前に沈黙してしまっていた。だが。


「……ハッ」

 俺は、意識を失って倒れているヒナとまどかを見下ろし、そして、無数のマキナの残骸が転がるギルドのエントランスを見渡した。


「なんだ、そんなことかよ。……神様だろうが、魔王だろうが、てめえで勝手にルールを書き換えるだけの、ただのチート野郎じゃねえか」


『……主?』

 俺は、拳を強く握り込み、ニヤリと笑みを浮かべた。


「嘘を真実に変える力? 上等だ。……なら俺は、てめえの全部を喰らい尽くして、全部守り抜くっていう俺のルールを、そいつの嘘の上から、物理でぶん殴って真実に変えてやる」


 撤退など、最初から選択肢にはない。

 部品にされたギルドの連中を取り戻す。そして神宮寺の傲慢な面をへし折る。

 誰が相手だろうと、決して止まるつもりはない。


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