ギルドの危機6
「ヒナ! まどか! 俺が奴らのターゲットを全部引き受ける! お前らは、俺の合図で一斉に奴らの関節を刈り取れッ!!」
「えっ!? 誠、何を――」
「結城さん!?」
俺は両腕を広げ、全力で声を上げた。
「――来いよ、ポンコツ共ォォォッ!! 俺の日常で、デカい顔してんじゃねえぞォォォォォォッ!!」
ズドォォォォォォォォォォンッ!!!!
俺の全身から、暴食の黒炎ではない。
天を衝くほどの、圧倒的で、傲慢なほどの『黄金のオーラ』が、火柱の如く立ち上った。
それは、周囲の空間を歪ませ、大気を震わせるほどの、純粋で暴力的なエネルギーの奔流。
俺の魂から放たれる、世界のルールすら塗り潰す強欲の覇気だ。
その瞬間。 百体のマキナの動きが、ピタリと、完全に停止した。
『……エラー。エラー。対象アルファより、規格外の反応を検知』
『……優先順位、再計算。……対象アルファの危険度、想定値の1万倍を突破』
『……全リソースを対象アルファへ集中。完全排除プロトコル、最優先実行』
完璧だったはずのシステムが、俺の放ったオーラに耐えきれず、戦術の最適解を狂わせた。
ヒナとまどかを包囲していたマキナたちが、一切の迷いなくターゲットを切り替え、百体全員が、狂ったように俺一人へと向かって突進してきた。
「誠ッ!! 貴方、一人で百体全部の攻撃を受ける気!?」
「結城さんッ! ダメです、コアを壊せない状態であの数は――!」
「いいから、準備しろッ!! ――来い、ガラクタ共ォッ!!」
俺の咆哮と共に、百体のマキナが、文字通り『白い津波』となって俺に襲いかかった。
四方八方、そして上空から。 無数の高周波ブレードが、打撃が、俺の身体を容赦なく切り裂き、打つ。
「ぐ、おぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
血飛沫が舞う。超速再生が瞬時に傷を塞ぐが、痛みが消えるわけではない。
俺は防御すら捨て、黄金のオーラを纏った肉体一つで、百体の殺人人形の猛攻を、その場から一歩も動かずに全て受け止めた。
俺の身体は、瞬く間に白い装甲の山(マキナの群れ)の下敷きになり、完全にその姿を消した。
「誠ッ!!」
「結城さんッ!!」
絶叫する二人。
だが、俺の意識は、その痛みの奥底で、かつてなく研ぎ澄まされていた。
(トラ子……! 今だ!)
『了解! マキナのローカルネットワーク、対象アルファ(マスター)への攻撃にリソースの99%を集中! 周囲の警戒システムに、致命的な遅延が発生していますッ!』
白い群れの底から、俺は血反吐を吐きながら、ギルド前の広場に響き渡る声で叫んだ。
「――今だァァッ!! まどか! ヒナァァッ!!」
「ッ!」
「行きますッ!!」
俺の意図を完全に理解した二人が、同時に動いた。
「正義の執行よ。……貴方たちの犯した罪、その重さを知なさいッ!」
上空のまどかが、巨大な【正義の天秤】を顕現させる。
天秤の『有罪』の皿が激しく落ち込んだ瞬間。俺に群がっていた百体のマキナ全員の身体に、黄金の光の鎖が巻き付き、異常なまでの『超重力』がのしかかった。
『エラー。重力異常。機体の駆動系に、致命的な負荷……』
百体のマキナの動きが、まるでスローモーションのように鈍る。完璧だった連携の歯車が、完全に狂った瞬間。
「ハァァァァァァァァッ!!」
白銀の閃光が、広場を縦横無尽に駆け抜けた。 日向ヒナの、極限の集中から放たれる【一閃】の連撃。
彼女は、コア(胸部)には一切刃を向けなかった。重力で動きの鈍ったマキナたちの隙間を、まるで花びらが舞うように軽やかに駆け抜け、その白銀の剣で、マキナたちの膝裏、肘の関節だけを、神業のような精度で正確に切断していった。
ザシュッ! キィィィンッ! ザバァァァァァァンッ!!
「【一閃・桜花】ッ!!」
百を数える白銀の斬撃波が、一斉に広場に咲き誇る。 完璧な群体だったシステムは、まどかの重力とヒナの神速の剣撃により、瞬く間にその四肢をバラバラに解体され、バランスを崩して次々と地面に崩れ落ちていった。
「――仕上げだ、オラァァァァァァッ!!」
そして。 俺に群がっていた残りのマキナたちの中心から、俺は両腕を天に突き上げ、全方位への『物理的な衝撃波』として大爆発させた。
ドッッッッッゴォォォォォォォォォォンッ!!!!
その衝撃波は、四肢を切断されて無力化しかかっていたマキナたちを、容赦なく広場の端まで吹き飛ばし、その電子頭脳に強制的なショートを引き起こした。
『……システム、崩壊。……全機能、停止……』
最後に百体のマキナの十字スリットが、完全に沈黙し、光を失った。
「……はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
朝日の差し込む広場。 そこには、胸のコアを無傷のまま残し、四肢の駆動系だけを破壊されて完全に無力化された、百体のマキナの残骸が転がっていた。
「……へへっ。ざっと、こんなもんだ」
ボロボロになったジャージ。全身傷だらけで血まみれの俺は、膝をつきそうになりながらも、なんとか立ち上がり、ニヤリと笑った。
「誠ッ! もう、本当に無茶ばかりして……!」
「結城さんッ! 大丈夫ですか!?」
まどかとヒナが、慌てて俺の元へと駆け寄り、両脇から俺の身体を支える。
二人の瞳には涙が滲んでいたが、その顔には、確かな勝利の安堵が浮かんでいた。
「悪いな、ヒナ、まどか。……おかげで、連中の魂を壊さずに済んだ。俺一人じゃ、絶対無理だったわ」
俺は、俺を支えてくれる二人の肩に腕を回し、ギルド本部の、固く閉ざされた巨大な正面扉を見据えた。
百の軍勢は突破した。 残るは、この奥で俺たちの日常を不当に占拠している、Genesisの隊長と神宮寺の野望を打ち砕くだけだ。
「……さあ、これまでの鬱憤を晴らしに行こうぜ。反撃開始だ」
そして、俺たちはギルドの扉へと力強く足を踏み出した。




