ギルドの危機4
「よし。……行けェ、コンクリートッ!!」
俺は、ブロック塀の破片を、百体のマキナのど真ん中へ投げつけた。
その瞬間。 ピタッ、と。 待機状態だったマキナたちの、顔の十字スリットが、一斉に赤く発光した。
『――排除対象、認識。殲滅プロトコル、実行』
その無機質なシステム音声と共に。 一番手前にいた三体のマキナが、まるで重力を無視したような異常な速度で瞬動した。
「なっ……!?」
次の瞬間。 空中で、ブロック塀の破片を取り囲むように、三体のマキナが、同時に手刀を繰り出した。
ズバァァァンッッ!!!
俺が投げたコンクリートの塊は、マキナの手刀によって、たったの一瞬で、文字通り『粉々』に粉砕されてしまった。
「……」
ギルド前の広場に、凍りつくような沈黙が落ちた。
圧倒的すぎる。感情も、迷いもない。ただ効率的に、排除対象を無に帰すためだけの、完全なる『暴力』のシステム。
「これ……流石に、厳しいか? ……いや、俺なら、ワンパンでいけると思うけど……」
『マスター、解析完了しました。Bランク指定魔物ミノタウロス程度なら数秒で解体するほどの戦闘力を保有しています。
……しかも、それが数百体。正直、マスターのみなら余裕ですが現状、ヒナとまどかの正面突破生存率は5%以下です』
トラ子のシミュレーション結果が表示される。
数も多いし、何よりあれに仲間たちの命が使われていると思うと、下手に壊していいものなのか判断がつかない。
『あっ!? これなら、いけるんじゃないかな?』
脳内で、スロ子の少し弾んだような声が響いた。
『機械が相手なら、【怠惰の偽装】を使えるかもしれない』
(怠惰の偽装?……ああ、さっき使ったアレか)
「よし、頼むぞ! スロ子!」
『分かったよぉ、マスター。それじゃあ、怠惰の偽装、展開ー』
スロ子の声と共にけだるい紫色の波紋が空間に広がり、百体のマキナたちを優しく包み込む。
『アイツらの認識システムに直接干渉して、マスターたちの姿を『ただの風景(石っころ)』として偽装します! そうすれば、アイツらの排除プロトコルに引っかからずに、奥へ進めるかも!』
「よし、やるぞ! スロ子、頼む!」
『了解です! 怠惰の偽装、展開ッ!』
スロ子の声と共に、けだるい紫色の波紋が空間に広がり、俺とヒナ、まどか、そしてナマケダルマの姿を包み込む。
直後、赤く光っていたマキナたちの十字スリットが、ピピピッというエラー音と共に青色へと戻った。
『エラー。排除対象、ロスト……。待機モードへ移行します』
無機質なシステム音声が、途切れ途切れになり、そして、完全に沈黙した。
「……なっ!? 何が、何が起きたんですか!? あの人形たちが、突然、みんなでナマケダルマちゃんみたいに、動かなくなったわよ!?」
ナマケダルマを抱えたまどかが、驚愕に目を見開く。
『……あれ? どうして……?』
偽装に成功したはずのスロ子が、不思議そうな声を上げた。
『偽装は成功はしたの。……普通なら数時間は動かなくなるはずなのに、内側から拒絶しているような……感覚?』
スロ子の反応が不安を走らせる。
人間の命を部品にして動くマキナ。
アイツらの内側にあるのは、単なるプログラムではない。分解された冒険者たちの『魂』だ。
その人間の意志が、怠惰を、拒絶しようとしている?
『――マスター。偽装の効果の強制解除を確認。……後10秒程度で、復活しますッ!』
(えっ? それしか効かない……?)
トラ子の叫びと同時。 俺たちが怠惰の光を放って、呆然と突っ立っていた、ちょうど10秒後のことだった。
ガコンッ、ピピピピッ!!
百体のマキナの、消灯していた十字スリットが、突然『赤』へと反転した。
強制的に覚醒したアイツらの八百の十字のスリットが殺意を宿して、俺たちの姿を捉えた。
『――排除対象、再認識。殲滅プロトコル、再実行』
無機質なシステム音声が、広場に響き渡った。 次の瞬間。 百体のマキナが、一斉に、弾丸のような速度で、俺たちに向かって、袭いかかってきた。
「チッ、そう上手くは行かないか!」
俺は、両腕に暴食の黒炎を全開にし、迫り来るマキナの軍勢へと、拳を叩き込んだ。




