ギルドの危機2
「行くわよ、二人ともッ!」
まどかの光の翼が爆発的な推進力を生み出し、俺たちの身体は光の矢となって、天井の大穴から朝焼けの空へと垂直に打ち上げられた。
「なっ……!? 上空へ跳躍だと!? 馬鹿な!?迎撃しろ! 全機、仰角を上げろ! 撃てェェッ!!」
眼下のGenesis部隊が蜂の巣をつついたような大混乱に陥る。 慌てて機首を跳ね上げた攻撃ヘリから、無数の対空ミサイルとガトリングの弾幕が迫る。 だが――遅い。
『右上方、45度からミサイル接近! 迎撃してください!』
「【一閃・白露】ッ!」
トラ子のナビゲートに合わせ、ヒナが空中で長剣を一閃。神速の斬撃波がミサイルの信管を空中で正確に両断し、巨大な爆炎のカーテンを作り出す。
『正面の大型ヘリ、急速旋回中! 突破口はあの機体の直上です!』
「よし、ぶち抜くぞ!」
俺はまどかから一瞬だけ片手を離し、右腕にドス黒い暴食の炎を展開させた。 そして光の翼の超スピードに乗せた、超質量のストレートを打つ。
「どきやがれェェッ!!」
ドッゴォォォンッ!!!
暴食の拳が大型ヘリの重装甲を紙屑のように粉砕し、機体ごと真二つに喰い破る。
爆炎を突き抜け、俺たちはGenesisの包囲網の上空へと完全に躍り出た。
眼下に広がる艦隊のサーチライトが、ぐんぐんと遠ざかっていく。
「突破成功ね! ふふっ、爽快じゃない!」
まどかが風を切りながら、楽しそうに笑声を上げた。青空へと突き抜け、ギルド本部のある陸地へと全速力で飛行を開始した、その時。
俺の耳元にあったインカムから、ザザッというノイズと共に、ギルマスの切迫した声が飛び込んできた。
『結城! 聞こえるか、結城よ!』
「ああ、聞こえてますよ!こっちは空から包囲網を完全突破しました!これからそっちへ合流します!」
風切り音に負けないよう怒鳴り返す俺。 だが、インカムの向こうのギルマスの声は、俺の無事を喜ぶどころか、底冷えするような絶望と激しい怒りに震えていた。
『……悪い、結城。お主らが戻る場所は、もうなくなってしまったかもしれん』
「……あ? どういうことだ?」
『ギルド本部が、Genesisの『朱雀隊』によって制圧された。……更に本日をもって【Cランク以下の全冒険者のライセンスが即時剥奪】されたんだ』
「ライセンス剥奪……? なんだそりゃ。低ランクの奴らに街の警備や雑用をさせなくなったら、ダンジョンの間引きはどうすんだよ」
『奴らは、代わりの戦力を用意してやがった……。古代の技術で作られた自律型戦闘ドール【マキナ】。感情も疲労もなく、魔石で動く傀儡人形だ』
ギルマスは、ギリッと歯が軋むほどの音を立てながら、その狂気の核心を吐き捨てた。
『それにライセンス剥奪だけじゃなかった……ッ!奴ら、低ランクの冒険者たちを全員強制連行し、マキナの『動力コア』にするつもりで人間の魂を分解し、機械の部品として使い潰す……! そのための『素材』として、ギルドの冒険者を徴用し始めたんだよッ!!』
「――なッ」
空を飛ぶ風の音が、一瞬で俺の耳から消え去った。 思考が、真っ白に染まる。
脳裏に浮かんだのは、しずくや葵たちの顔だ。命を、魂を、機械の部品として、使い潰すだと……?
ドクンッ。
俺の心臓の奥底で、何かが決定的に弾け飛んだ。 大罪の悪魔すらも凍りつくような底知れぬドス黒い怒り。
「……誠?」
「結城、さん……?」
俺の両脇を抱えているまどかとヒナが、俺から放たれた異様な気迫に息を呑んだ。
俺の全身から噴き出す黒い暴食の炎が、周囲の大気そのものをジュウジュウと焼き焦がしていく。
「……ギルマス」
俺はインカムを握りしめ、自分でも驚くほど冷たく、静かな声で言った。
「動ける人たちをまとめて、今すぐギルドから退避してください。……俺が、すぐに行きます」
『結城……!? 相手は国家の特務機関だぞ! 手を出せば、お主自身が完全に国家反逆罪のテロリストとして――』
「……関係ない」
俺は、朝日に照らされ始めた関東の街並みを、眼下に見据えた。
「俺の日常を荒らして、人を部品扱いするようなクソ野郎どもは……。国家だろうが、Genesisだろうが、全員まとめて俺が『奪い尽くす』!」
狂気的な行動に出るGenesisに対し、 結城誠の反撃が、今まさに始まろうとしていた。




