マキナ2
「マキナ……だと? そんな訳の分からん機械人形に、街の安全と命を預けられるかよッ!」
ギルマスの吠えるような抗議に、獅堂はやれやれと肩をすくめた。
「口で言っても理解できないようなので、お見せしましょう。……そのドールとやらが、どれほど効率的で、貴方たちギルドの人間よりも『優れている』かをね」
獅堂は冷酷に笑うと、ギルドに併設されている訓練場へとアゴをしゃくった。
「出してください。ギルドが捕獲して訓練用に使っている魔獣の中で、一番凶暴なやつを。我々のマキナの、実戦テストの的にしてやりますよ」
◆
ギルド大規模訓練場。 分厚い障壁の向こう側に広がる広大な闘技場には、ギルマスの指示により、檻から放たれた一体の凶悪な魔獣が咆哮を上げていた。
『Bランク指定魔獣・ミノタウロス』。
体長は3メートルを超え、全身の筋肉は鋼鉄のように硬く、手には巨大な戦斧を握りしめている。
本来であれば、Bランク冒険者のパーティが作戦を立ててようやく討伐できるレベルの、バケモノだ。
「さあ、見せてもらうぞ。お前らの言うドールとやらが、あれをどうやって倒すのかをな」
ギルマスが腕を組み、険しい表情で闘技場を見下ろす。
獅堂は障壁のこちら側で、余裕の笑みを浮かべたまま、たった『三体』のマキナを闘技場へと送り出した。
「マキナ。目標を排除しろ」
獅堂の音声入力による命令が下された瞬間。
ピタッ、と。 三体のドールの動きが、完全に『同期』した。
「ブモォォォォォォォッ!!」
怒り狂うミノタウロスが、大気を震わせる咆哮と共に、凄まじい速度で三体のマキナへ向かって突進していく。
その巨大な戦斧が、風を切り裂いてドールの一体へと振り下ろされた。 直撃すれば、盾すらも紙屑のように粉砕される一撃。
――ドゴォォォォンッ!!
だが、闘技場に響き渡ったのは、硬質な金属の激突音だった。
ミノタウロスの振り下ろした巨大な戦斧を、なんと一体のマキナが、片腕だけで事も無げに受け止めていたのだ。
純白の装甲の足元がクレーターのように陥没しているが、ドールの腕は1ミリたりとも曲がっていない。
「なっ……!? あの質量の攻撃を、真正面から受け止めただと!?」
ギルマスが驚愕に見開かれた目を向ける。
『対象の脅威度、想定数値を2%超過。……殲滅プロトコルへ移行します』
マキナの顔の十字スリットが、青から『赤』へと明滅した。
それと同時に、残りの二体が、まるで重力を無視したような異常な速度でミノタウロスの背後と頭上へ瞬動した。
「ブ、モ……?」
冒険者のような、掛け声も、連携の合図もない。 ただアルゴリズムに従った『処理』。
背後に回ったマキナが、手刀をミノタウロスの両膝の裏へと突き刺し、正確に切断する。
巨体がバランスを崩して膝をついた瞬間、頭上へ跳躍していた三体目のマキナが、その足先から鋭利な高周波ブレードを展開し、ミノタウロスの脳天から背骨にかけて、一直線に振り下ろした。
ズバァァァンッ!!
血飛沫が舞う暇すらなく。 ミノタウルスは、たったの数秒で、文字通り『解体』され、光の粒子となって闘技場に崩れ落ちた。
「……」
ギルドの職員たちも、熟練の冒険者たちも、声を発することすらできず、その光景に戦慄していた。
圧倒的すぎる。 恐怖も疲労も、感情もない。ただ与えられた命令を、最も効率的な最適解で実行する機械。
「どうですか、ギルドマスター。これが、神宮寺長官の法の下で世界を管理する、新しい『秩序』です」
獅堂が、ガラス越しにミノタウロスの残骸を見下ろしながら、誇らしげに語る。
「彼らは命令に絶対服従し、どんな任務も即座に完了させます。感情を持たないため、トラウマを抱えることも、仲間を見捨てて逃げることもありません。それに……」
獅堂は、倒れたミノタウロスからドロップした『Bランクの魔石』を、一体のマキナが無表情に拾い上げ、自らの胸部のスロットへ押し込むのを見た。
「彼らの動力源は、魔石です。魔獣を狩り、その魔石を自らの体内に取り込むことで、半永久的にエネルギーを補給し続けることができる。……人間の冒険者のように、ご飯を食べる必要も、睡眠も、報酬(金)を要求することもありません。実にリーズナブルで、国家にとって完璧な歯車でしょう?」
「……確かに、凄まじい力だ。戦力としては、申し分ないだろう」
ギルマスは、額に冷や汗を滲ませながらも、鋭い眼光でマキナたちを観察し続けていた。
長年、数え切れないほどの冒険者たちの『生と死』を見てきた彼だからこそ、気づいた違和感があった。
「……だが、おかしいな」
「うん?何がですか?」
ギルマスは、闘技場から戻ってきたマキナの胸部――魔石を取り込んだスロットの奥で、微かに脈打っている『ドス黒く赤い光』を指差した。
「いくら魔石を動力にしておるとはいえ、あれほど高次元の『自律行動』と『連携』を行うためには、単なるプログラム以上の、莫大な情報処理を行うための【コア(心臓部)】が必要なはずだ」
「……」
「おい、獅堂。あのマキナとやらの胸の奥で、心臓のように脈打っている赤いコア……あれは、一体、何をもとにして作られているんだ?」
その問いに対し、獅堂は、一切の悪びれる様子もなく、むしろ心底愉快そうに、肩を揺らして笑い出した。
「ククク……ハハハハハッ! さすがはギルドマスター、鋭いですね。ええ、ご推察の通り、魔石のエネルギーを変換し、システムを統括するための『高密度のコア』が内蔵されています」
獅堂は、ガラスに手を当て、純白のドールたちを愛おしそうに見つめた。
「コアの素材ですか? ……そんなもの、決まっているでしょう」
獅堂は振り返り、エントランスで怯えるCランク以下の冒険者たちを、まるで『ゴミ捨て場の資源』を見るような冷酷な目で舐め回した。
「それは、人間の命(魂)ですよ」




