↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【存在強奪】 ~やけくそでダンジョンに素手特攻したら、存在もスキルもステータスも奪える能力に目覚めました~  作者: 仁科異邦


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

303/335

潜入


 防衛プログラム『ドミニオン』の残骸を抜け、黒の巨塔のさらに奥へと進んだ俺とヒナ。 分厚い隔壁をいくつか越えた先で、俺たちは思わず足を止めた。


「こいつは……壮観だな」

 目の前に広がっていたのは、先が見えないほどの巨大な『縦穴』だった。

 直径数百メートルはあるだろう超巨大な円筒形の空間。


 壁面には無数の青白い発光ラインが幾何学的な模様を描きながら、遥か頭上の暗闇へと吸い込まれるように伸びている。 まるで、巨大な宇宙船のエンジンの中心部だ。


『マスター。この縦穴自体が、塔の中枢エリアへと直結する巨大な昇降システム(エレベーター)になっています』


 脳内のトラ子のナビゲートに頷きつつ、俺は縦穴の淵――巨大な円盤状のリフト・プラットフォームが設置されているエリアの物陰に身を潜めた。


「結城さん。……先客の様です」

 隣で息を殺すヒナの視線の先。 リフトの起動コンソール周辺に、白銀の特殊装甲服に身を包んだ部隊が展開していた。


 およそ三十名。政府直属の対大罪特務機関『Genesisジェネシス』の精鋭たちだ。彼らは周囲を厳重に警戒しながら、何やら特殊なデバイスをコンソールに接続し、ハッキングを試みている。


「あの武装……ただの小銃じゃないな」

 俺は暗がりから彼らの装備を観察した。 全員が携行しているのは、明らかに魔獣用ではない、対人・対スキルに特化したような流線型の重火器。


「結城さん。ご命令とあらば、私がここから一瞬で距離を詰め、彼らの指揮系統を物理的に切断しま……」


「いや、待てヒナ。ステイだ」

 俺は、白銀の長剣の鯉口を切ろうとしたヒナの肩を、スッと手で押さえた。


「相手は腐っても国家の最高機密部隊だ。どんな兵器を隠し持っているか分からない。今の状態で、未知の戦力に正面から突っ込むのはリスクが高すぎる」


 俺の言葉に、ヒナは少し不満そうにしながらも、素直に剣から手を離した。 相手の戦力と手札が不明な以上、下手に動いて消耗戦に持ち込まれるのは最悪の愚策だ。


 こちらの任務の目的は彼らの殲滅ではなく、最上階にある『封印の要石』の奪取と、神宮寺の真の目的を暴くこと。


「なら、見つからずにあのリフトに乗るしかありませんね」


「ああ。……リフトの『下』に潜り込むぞ」

 俺の提案に、ヒナはコクリと頷いた。


 ◆


 ――数分後。  

 Genesisのハッキング部隊が、コンソールのプロテクト解除に成功した音が鳴り響いた。


『システムロック、解除。メインシャフト、上昇シーケンスへ移行します』


 無機質な塔のアナウンスと共に、巨大なプラットフォームが重低音を響かせて震え始める。


『総員、リフトへ搭乗! 周囲警戒を怠るな!』

 指揮官の怒号と共に、三十名の部隊が一斉にリフトの上へと乗り込んでいく。


 その直前。

 リフトが稼働する際の凄まじい機械音と振動を『隠れ蓑』にして、俺とヒナは物陰から滑るように飛び出した。


「(……今だ!)」

 俺たちはリフトの床面には上がらず、プラットフォームの隙間から『リフトの裏側(底面)』へと飛び移った。


 太い骨組み(フレーム)に、指の力だけでぶら下がる。ヒナも同様に、全く音を立てることなく俺の隣のフレームに張り付いた。


 ゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォォォッ!!!

 直後、巨大なリフトが、凄まじいG(重力)を伴って暗闇の遥か上空へと猛烈なスピードで上昇を始めた。


 ロケットの打ち上げのような、圧倒的な上昇速度。 眼下の景色が、滝のように下へと流れていく。


「(くっ……! すげえ風圧だ……!)」


「(結城さん、手は絶対に離さないでくださいね……!)」

 吹き荒れる暴風の中、俺たちは強靭な腕力と脚力で、リフトの底面に必死にしがみついていた。   


 真上には、わずか数十センチの床板を隔てて、三十人の完全武装の敵部隊がいる。息遣い一つ、僅かな金属音一つ立てれば、真上から蜂の巣にされる極限の緊張感。


『マスター。警告です。頭上の部隊が、リフト周辺の【生体熱源探知サーモグラフィ】によるスキャンを開始しました。


 このままでは、床越しの熱源で数秒後に発見されます』

「(マジかよ、そんなもんまで起動してんのか!)」


 俺は内心で舌打ちをした。 どんなに気配を殺しても、体温(熱)だけは物理的に隠しようがない。


『――ふぁぁぁ。マスター、うるさいよぉ……』

 その時。 猛烈な風切り音の中で、俺の脳内に、のんびりとしたあくびの声が響いた。


 精神世界の最下層で寝惚けていたボサボサ銀髪の少女、スロ子(怠惰のシステムAI)だ。

(スロ子! お前、熱源探知をごまかせるか!?)


『うん……。マスターが蜂の巣にされると、ボクの寝床がなくなっちゃうからね。……ちょっとだけ、マスターたちの熱源を「おやすみ」させてあげる』


 スロ子が、精神世界でふわりと指を差した。

『――【怠惰の偽装スロース・ハイド】』


 その瞬間。

 俺とヒナの身体から、一切の「熱(生命活動の証)」がシステム的に遮断され、周囲の冷たい外気と完全に同化する感覚があった。


 身体が凍りつくわけではない。

 ただ、あらゆるセンサーに対して「ここに生命体はいない」という怠惰なエラーを強制的に書き込んだのだ。


『……生体反応なし。クリアだ。引き続き上層への警戒を続けろ』


 頭上の格子状の床越しに、指揮官の安堵したような声が微かに聞こえてきた。 どうやら、間一髪でスキャンを誤魔化すことに成功したらしい。

「(助かったぜ、スロ子……)」


 俺は冷や汗を流しながら、鉄のフレームを握り直した。 暴風に耐えながらリフトの底に張り付いていると、頭上のGenesis隊員たちの会話が、風の音に混じって途切れ途切れに聞こえてきた。

『……長官からの至上命令だ。最上階のシステム中枢に到達次第、物理的なハッキングを行い、【封印の要石】の所有権をGenesisへ書き換える』


『了解。しかし、神宮寺長官はあの石を使って何を……?』

『余計な詮索はするな。我々はただ、国家の安全のためにギルドという野蛮なシステムを排除し、完全な管理社会ルールを構築するだけだ』

(……なるほど。完全に神宮寺の思想に染まりきってやがるな)


 彼らは自分たちが『正義』だと信じて疑っていない。 神宮寺ルールは、すでにこの部隊の精神の根幹まで支配しているようだった。


『マスター。間もなく、リフトが最上部(システム中枢)へと到達します。減速が始まります』


 トラ子のアナウンスと共に、俺たちの身体を押し潰していた強烈なGがスッと抜け、リフトの速度が徐々に落ちていった。


 頭上の隙間から、これまでとは違う、眩いほどの純白の光が差し込んでくる。

 ガコンッ! と、重厚な金属音が響き、巨大なプラットフォームが塔の最上階にドッキングした。


『到着したぞ! 総員、展開! 内部の制圧と要石の確保を急げ!』

 指揮官の号令と共に、頭上のブーツの足音が慌ただしく前方のゲートへと向かっていく。


 三十人の部隊が完全にプラットフォームから降りたのを見計らい、俺とヒナは音もなくリフトの縁から這い上がり、物陰へと身を翻した。


「(……よし、潜入成功だ)」

「(はい。彼らの背後から、いつでも奇襲をかけられます)」

 ヒナが、鞘の中で剣をわずかに鳴らす。


 俺たちは気配を完全に断ち切ったまま、Genesisの部隊の後を追うように、純白に輝く『中枢エリア』のゲートへと足を踏み入れた。


 相手の戦力は未知数。だが、俺たちは彼らの完全に『死角』を取り、神宮寺の目的の核心へと誰よりも早く到達したのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。