暴食の炎
「力押しじゃキツいか。しかも、動くたびに息が上がる……」
俺は荒い息を吐きながら、敵の掃射を回避した。
ステータスの低下により、俺の動作速度が下回り始めている。このまま防戦一方になれば、いずれスタミナが尽きてジ・エンドだ。
光弾の雨を掻き潜り、俺の脇腹を狙って一機のドミニオンが防壁の裏から光のブレードを突き出してきた。
避けきれない。俺が覚悟し、肉を切らせて骨を断とうとした、その時。
『……チッ、見ていられんな。貧弱な肉袋め』
精神世界の奥底から、グラオ(暴食の分身体)の傲慢な舌打ちが響いた。
『たかがシステムの防衛機構ごときに手間取るなど。……おい、我が力の一部を貸してやる。ステータスが奪えないのなら、その鬱陶しい光の刃ごと「喰い千切って」しまえ』
俺の心臓の奥にある【暴食のコア】が、ドクンと黒く脈打った。
その瞬間、俺の両手に展開していた黄金のオーラに、ドス黒い瘴気のような炎が混ざり込む。
「喰い千切る、ね……。悪くない提案だ」
俺は迫り来る光のブレードを避けることなく、あえて左手で真正面から『掴み』にいった。
「結城さんッ!?」
ヒナが悲鳴のような声を上げる。
だが、光のブレードは俺の左手を切断する前に、俺の手を覆う黒い炎によって、ジュウッと『咀嚼』され、消滅してしまったのだ。
「な……!?」
感情を持たないはずの防衛プログラムの動きが、エラーを起こしたようにピタリと止まる。
自らの放った絶対的なエネルギーの刃が、文字通り「喰われた」という事象を、システムが理解できなかったのだ。
「よそ見してんじゃねえよ」
俺はガラ空きになった敵の胸部に、黒い炎を纏った右拳を深々と突き立てた。
ドゴォッ! と装甲がひしゃげ、機体の内部システムが暴食の力によって強引に『消化』され、光の粒子となって霧散していく。
ステータスが奪えなくとも、暴食の破壊力は相手の防御力を無視する。
「ヒナ! 前方の防壁をぶっ壊す! 合わせろ!」 「はいっ!」
俺は大地を蹴り、残りのドミニオンが展開する巨大なエネルギー防壁に向かって一直線に突っ込んだ。
「オラァァァッ!!」
黒い炎を纏った右の拳を、防壁の中心に叩き込む。 パキィィィンッ! と、ガラスが砕けるような音を立てて、強固なはずのエネルギー防壁が暴食の力に『喰い破られ』、大穴が開いた。
「――そこですッ!」
俺がこじ開けた一瞬の隙。 その大穴を縫うように、ヒナの身体が白銀の閃光となってすり抜けた。
「【連刃・乱れ桜】!」
ヒナの神速の連続剣劇が、防壁を失って無防備になったドミニオンたちのコア(胸部)を次々と正確に貫いていく。
美しい剣の舞が通るたびに、天使型プログラムたちは青白いスパークを吹き出し、ダウンしていく。
暴食の力を織り交ぜた俺の強引な破壊と、ヒナの緻密で圧倒的な剣技。 およそ二十機いた防衛プログラムは、ものの数分で完全にスクラップの山と化した。
「ふぅ……。はぁ、はぁ……ひとまず、片付いたな」
俺は膝に手を突き、荒い息を整えた。
たかが二十機、だが体感的には数百匹のオークを相手にしたような疲労感がある。
「結城さん、お疲れ様です。お怪我はありませんか?」
「ああ。ヒナのフォローがなきゃ、危なかった」
ヒナがスッとハンカチを取り出し、俺の額の汗を拭おうとしてきたので、俺は慌てて自分で拭った。
彼女は少しだけ残念そうな顔をしたが、すぐに真剣な表情に戻り、通路の先を見据えた。
「それにしても……これだけ強固な防衛システムを、Genesisの部隊は強行突破しているんですね」
「ああ。神宮寺の部下だ。相当な手練れか、あるいは……強力な兵器を持ち込んでいるかだな」
俺は崩れ落ちた天使の残骸をまたぎ、再び歩き出した。
システムの中枢に安置されている『封印の要石』。 それがGenesisの手に渡れば、世界のルールが書き換えられ、ギルドも、俺の日常も、完全に崩壊する。
疲労を訴える身体に鞭を打ち、俺とヒナは黒の巨塔の上層を目指して、歩みを早めた。




