防衛システム
Genesisの精鋭部隊が強行突破したと思われる、分厚いチタン合金の融解扉。 その残骸を乗り越えた先は、これまで以上に無機質で冷たい空間だった。
通路の幅は広く、天井は高い。
壁面には青白い発光ラインが、まるで血管のように脈打っている。
俺とヒナは足音を完全に殺し、互いの死角をカバーし合うようにして慎重に前進していた。
「結城さん。……空気が、変です」
前衛を歩いていたヒナが、スッと右手を挙げて停止のサインを出した。 彼女の白銀の瞳が、薄暗い通路の奥を鋭く睨みつけている。
「何か、嫌なプレッシャーを感じます……」
俺が拳を握りしめた、その瞬間だった。
『――警告。警告。未登録のアクセス権限を持つ個体を確認』
通路の奥、そして頭上から声が響き渡った。
直後、天井と床の青い発光ラインが、一瞬にして危険を知らせる『赤色』へと反転する。
無機質な警告音と共に、通路の両側の壁がスライドし、暗闇の中から『それら』が滑るように姿を現した。
「来るぞ、ヒナ!」
魔獣ではない。 真っ白な流線型の装甲に身を包んだ、人間の大人ほどの大きさを持つ人型兵器。
背中には、光の粒子で形成された『天使の羽』のようなエネルギー・スラスターを展開している。
顔にあたる部分には目や鼻はなく、ただ十字に走るスリットの奥で、真っ赤な単眼のレンズが不気味に光っているだけだった。 その数、およそ二十機。
『システム防衛プログラム【ドミニオン(主天使)】クラス。……イレギュラーの排除を開始します』
無機質な宣言と共に、天使型の防衛システムたちが一斉に腕の装甲を展開。そこから青白い光を放つエネルギー・ブレードを形成し、一切の足音を立てずに襲いかかってきた。
「結城さん、下がっていてください! 今のあなたのステータスでは危険です!」
俺が構えるよりも早く、ヒナが俺の前に飛び出した。
シャキィンッ! と、冷たく鋭い金属音が通路に響く。 抜刀と同時、ヒナの身体が白銀の流星と化した。
「――【一閃・白露】!」
一切の無駄を省いた居合。
先頭にいたドミニオンの胴体が、袈裟懸けにスッパリと両断される。
だが、切断面から血は出ない。代わりに青白いスパークが散り、システムのエラー音と共に機体が崩れ落ちた。
「さすがだな。……だが、俺もただ守られてるだけじゃないんでね」
俺はヒナの背後から跳躍し、迫り来る二機目のドミニオンの頭上を取った。
「本調子では無いが、理不尽をぶっ壊すには十分だ……ッ!」
俺の右腕に、黄金色のオーラが集中する。
【腕力】と【敏捷】のステータスを極限まで局所強化し、眼下の機体の赤い単眼レンズめがけて、容赦のない踵落としを叩き込んだ。
ドッッッゴォォォォンッ!!
轟音と共にチタン合金の床がクレーターのように陥没し、防衛プログラムの頭部が粉砕される。
だが。
(……硬えっ!?)
俺は着地と同時に顔をしかめた。 普段の【全状態なら、こんな装甲は豆腐のように粉微塵になっていたはずだ。しかし、ステータスが4割まで落ち込んでいる今、一撃一撃に強烈な反動(重さ)が骨身に響く。
そして何より、決定的な『違和感』があった。 俺は、粉砕したドミニオンの残骸を見下ろし、舌打ちをした。
「おい、トラ子。こいつを倒したのに……俺の【存在強奪】が発動しねえぞ!?」
いつもなら、敵を倒せば対象のステータスやスキルを強奪し、自動的に自分の力へと変換されるはずだ。
しかし、今倒した敵からは、何のステータスも、魂の欠片すらも流れ込んでこない。
『マスター。対象の防衛プログラムは、魔獣や人間のような「魂(生命力)」や「ステータス」を持つ存在ではありません。
純粋なシステム(コード)の塊であるため、マスターの【存在強奪】で奪うべき「概念」がそもそも存在しないのです』
『その通りじゃ、主よ。こやつらは文字通りの無機物。倒してもお主が強化されることはなく、魔力の補給もできん。ただひたすらに体力とリソースを削られるだけの、ジリ貧の戦闘になるぞ!』
「チッ、一番厄介な相手ってことかよ!」
俺が毒づいた瞬間。
残りの十八機のドミニオンたちが、一斉に戦術パターンを変化させた。
彼らはただ突っ込んでくるだけの単調な動きをやめ、前衛と後衛に瞬時にフォーメーションを展開。
前衛の六機が互いの光のブレードを連結させ、通路を完全に塞ぐような巨大な『エネルギーの防壁』を展開した。
そして、後衛の機体は腕部をライフル状に変形させ、こちらへ銃口を向けている。
『マスター。対象の防衛プログラム群、戦闘パターンの学習能力を有しています。現在、マスターたちの攻撃軌道を解析し、最適な殲滅態勢へと移行しました』
「ヒナ、下がるぞ!」
「はいっ!」
俺たちは咄嗟に後方に跳躍した。
直後、ドミニオンの後衛から、無数の光弾が雨霰のように掃射される。
ヒナが流れるような剣さばきで光弾を弾き落とすが、防壁のせいでこちらからの攻撃は届かない。
「結城さん、あの防壁、私の剣撃を通しません! かなり強固な魔力……いえ、システム干渉の壁です!」




