03.小話/霧狼(きりおおかみ)
冒険者ギルドの賑やかな喧騒の中、ダリアはカウンターで渡されたパーティ登録用紙を木製の机に広げ、羽ペンを手に取った。
名前や職種の欄はすでに埋められているが、一箇所だけ空白のまま残されている項目がある。
「オルガ、パーティ名の希望はありますか?僕はそういうセンスがないので、できれば案を出してもらえると助かるのですが」
ダリアが淡々と尋ねた。急に振られたオルガは、パチパチと瞬きをする。
「えぇ、そんないきなり言われても……。他の人たちは、みんなどうやってパーティ名を決めてるの?」
「ゆかりのある物や土地から取ったり、縁起の良さで選んだり、単純に派手さや格好良さで付けたりする人も多いですし、色々ですかね。僕らは故郷が同じですから、そこから取ってもいいかもしれません」
「故郷かぁ……」
オルガは腕を組み、うーんと唸りながら記憶を辿った。生い茂る木々に、白い闇を降ろす霧。
「霧の山……『霧』……?」
「さすがに短すぎて他のパーティと被りますね。何か付け加えますか?」
ダリアが冷静に指摘すると、オルガは目を閉じ、故郷の光景を深く思い浮かべた。
視界を遮る白い闇に覆われた景色。冷たい空気の中で、遠くから聞こえてきた高い遠吠えが、今も耳の奥に微かに残っている。
「……おおかみ」
ぽつりと呟いたその言葉に、ダリアは即座に首を縦に振った。
「いいんじゃないですか?『霧狼』。それなりに威厳もありそうですし」
「え、あ、そう?本当にそれでいいの!?」
あっさりと決まってしまい、オルガが拍子抜けしているのも気にせず、ダリアは用紙の空白に迷いのない手つきで書き込んだ。
「いいんです。名前そのものに意味はありません。重要なのは、これから僕たちがどれだけの実績を残すかですから」
ダリアはまったくこだわりがない様子で、用紙を手にそのまま受付カウンターへと歩いて行ってしまった。




