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【完結】飼い殺し聖女は、爪も牙も上手に隠す  作者: 木風


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3/3

第三話 私が、あの子を聖女にしたのよ

晩餐会の日。

ロザリーは、ステラを病気と称して欠席させた。

念のため、部屋の外には信頼できる使用人を置いた。

ステラが不安に駆られて勝手に王宮へ向かうようなことがないように。


それだけのことだった。


地下の静養室は暗いが、清潔だ。

薬も水も用意してある。

本当に閉じ込めているわけではない。


ロザリーは自分にそう言い聞かせながら、最高級のドレスを身に纏った。

淡い金糸を織り込んだ深紅のドレス。

首元には、アルベールが以前褒めてくれたルビーの首飾り。

鏡の中の自分は、完璧だった。


美しく、気高く、公爵令嬢にふさわしい。


今夜こそ、取り戻す。

アルベールの視線を。

王宮の称賛を。

本来、自分に向けられるべきだったすべてを。


王宮の大広間は、眩いほどの光に満ちていた。

楽団の音色が流れ、貴族たちは華やかな装いで笑い合っている。


ロザリーが入場すると、いくつもの視線が向けられた。

けれど、その視線には以前のような羨望だけではない。

どこか探るような、囁き合うような気配が混じっている。


「ロザリー」


アルベールの声が響いた。

ロザリーは微笑んで振り返る。

けれど、そこに立っていたアルベールの表情は、氷のように冷たかった。


「殿下」

「ステラ嬢はどこにいる?」

「急な熱で、今夜は屋敷にて休ませておりますわ。聖女としての務めが続いておりましたから、疲れが出たのでしょう」

「嘘をつくな」


その一言に、広間の空気が凍りつき、ロザリーの笑みが止まる。


「我が騎士たちが、君の屋敷の地下室から彼女を救出した」


広間の扉が開く。

近衛騎士に支えられ、青白い顔をしたステラが入ってきた。

白いドレスは乱れ、銀の髪はほどけ、細い手首には扉を叩き続けたのか赤い痕が残っている。

その姿は、まるで悪徳貴族に虐げられた悲劇の聖女そのものだった。


「違います」


ロザリーは即座に言った。


「殿下、これは誤解です。私は彼女を休ませようとしただけです。ステラは最近、奇跡の行使で疲れ切っていて」

「鍵をかけて、地下に?」


アルベールの声は低かった。


「それは、彼女が混乱して外へ出ないように」

「ロザリー。君は彼女を救ったのではない。自分の虚栄心のために囲い込み、利用し、都合が悪くなれば閉じ込めた」


違う。


私は救った。

私がいなければ、ステラは死んでいた。

私が服を与えた。

私が礼を教えた。

私が聖女に戻してやった。


なのに、なぜ誰もそれを見ないの。


「違います! 私は彼女を育て、守ってきたのです!」


ロザリーの声が広間に響く。


「彼女は何も知らなかった。王宮の作法も、自分の力の使い方も、誰を信じればいいのかも。私がいなければ、また教会に利用され、民衆に石を投げられ、どこかで野垂れ死んでいたのよ!」


貴族たちは息を潜めている。

その沈黙が、ロザリーには責める声に聞こえた。


「私が、あの子を聖女にしたのよ」


言ってから、ロザリーは気づいた。

その言葉は、あまりにも傲慢に響いた。


ステラが、アルベールの袖を握る。

そして、か細い声で言った。


「アルベール様……どうか、ロザリー様を責めないでください」


広間の視線が、一斉にステラへ集まる。

ステラは震え、今にも倒れそうなほど青ざめながら、それでもロザリーを庇うように一歩前へ出た。


「ロザリー様がいなければ、私はあの日、火刑台で死んでいました。礼の仕方も、祈りの捧げ方も、人前で涙を見せてはいけないことも、すべてロザリー様が教えてくださったのです」


ロザリーは息を呑んだ。


違う。

そんな言い方をすれば、自分がステラを作り替えたように聞こえる。

そんな顔で許しを乞えば、自分だけが残酷な加害者になる。


「ステラ、あなた……」


ステラは涙をこぼした。

完璧な角度で。

かつてロザリーが教えた通りに。


「だから私は、ロザリー様を恨んでなどおりません。たとえ、私が道具だったとしても」


広間の空気が変わる。


同情はステラへ。

怒りはロザリーへ。


ロザリーは、その瞬間に理解した。


この子は、覚えていたのだ。

自分が教えたことを。

どう立てば美しく見えるか。

いつ涙を流せば人の心が動くか。

どの言葉を選べば、相手が最も残酷に裁かれるか。


そして、そのすべてを、今、自分に向けて使っている。


「ロザリー・ド・モンフォール」


アルベールが告げる。


「君との婚約協議は白紙に戻す。聖女ステラへの不当な監禁、王家への虚偽報告、そして聖女の力を私的に利用した疑いについては、王宮で正式に審問を行う」

「殿下、違います。私は、私はただ」

「父王の裁可が下るまで、君には修道院で謹慎してもらう」


ロザリーの足元が崩れるようだった。


修道院。

婚約の白紙。

審問。

すべてが、遠く聞こえる。


アルベールの手が、ステラの肩を支えていた。

ロザリーが一生をかけて欲しかったその温もりは、今、彼女が最も見下していたはずの少女に与えられている。


「待ってください、殿下。私は本当に、ステラを」


救ったのです。

そう言おうとした。

けれど、言葉は最後まで出てこなかった。


救った。

その言葉は、もうロザリーの味方をしてくれない。

騎士たちに両側を固められ、ロザリーは広間を出る。

かつて羨望と畏怖を向けてきた貴族たちは、今や冷たい目で彼女を見ていた。


その視界の端で、ステラがそっと近づいてくる。

アルベールが止めようとしたが、ステラは小さく首を振った。


「ロザリー様」


呼ばれて、ロザリーは振り返る。

ステラは、かつてと同じように儚げに微笑んでいた。

火刑台の前で救いを求めた少女のように。

ロザリーの教えを一つひとつ吸収し、王宮で聖女として立つことを覚えた少女のように。


けれど、その銀の瞳だけは違っていた。


「すべて、ロザリー様のおかげです」


耳元で囁かれたその言葉に、ロザリーの背筋が凍る。

それは、かつてステラが涙ながらに告げた感謝の言葉だった。

けれど今は違う。


あの時は、縋る声だった。

今は、別れの宣告だった。


ロザリーはようやく理解した。

自分はステラを救った。

それは事実だ。


けれど同時に、自分はステラに教えてしまったのだ。

王宮で生き残る術を。

弱さを武器に変える方法を。

涙で人の心を動かす技術を。

そして、最も美しい許しこそが、相手を最も残酷に裁く刃になるということを。


黄金の籠を壊したのは、小鳥ではなかった。

籠を飾り立て、磨き上げ、小鳥に羽ばたく力を与えてしまった、飼い主自身の強欲だったのだ。

最後までお付き合いありがとうございました。

利用しようとしていたら、利用されていた……悪役令嬢視点のお話しでした。

といいつつ、聖女も腹黒いな……と思ったら、ブックマーク、★★★★★、よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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