解き放たれたチカラ
♢
この村には、ロングボウ (長弓) はなかったが、狩猟用のショートボウと村を護るための戦闘用のショートボウはあった。
ショートボウは、全長が120センチメートルほどなので、背中に斜めに背負って持ち運ぶことができる。
また、ショートボウは、「速射」や「機動性」が目的なので、ロングボウ (長弓)ほどの弦を引き切る筋力は必要ない。
そのショートボウの引き重量は、大体30~60ポンド (約18.1~27.2キログラム)である。
この村にあったショートボウは、その中の狩猟や戦闘向けの中量型といわれるもので、弦の引き重量も、40~50ポンド (約18.1~22.7キログラム) なので、女性のクレアにも弦を引き切ることは可能だった。
但し、ショートボウの矢が届く距離は、150~250ヤード (約140~230メートル) あるが、これは矢が届く限界の距離であり、狙って当てられる射程距離は、20~40ヤード (約18~36メートル) とされていて、訓練された騎兵でも、50ヤード (約45メートル) が限界だとされていた。
「では、先に私がやってみせます」
そう言って、弓矢の名手だというビクトルは、クレアが眠っていた部屋の窓が見える位置から、丘の上に立つあの一本の大木に向かって、弦を引き絞って矢を放つ。
その矢は確かに大木の手前までは届いたが、届いたというより、ただ落下したという方が正しい。
「見ての通りです、十兵衛殿」
そうビクトルは言った。
「なるほど。それなら、今度はクレアがやってみてよ」
そう少年は言った。
「わかった……」
クレアは、少し緊張して言った。
「あっ、クレア。弦を引いて、矢を放つときに、矢じりの先に、何か強い願いみたいなチカラを籠めてほしいんだ」
そう少年は言った。
「それって、どういう意味なの」
そうクレアは聞く。
「なんでもいいんだ。そういうクレアの気持ちが、何かのチカラになるかもしれないからさ」
そう少年は言った。
「わかった。とにかくやってみるわね」
そう言ってクレアは、矢じりの先に強い気持ちを籠めながら、弦を引き絞る。
そうして、次の瞬間に、丘の上に立つあの一本の大木に向かって放たれた矢は、そのまま真っ直ぐに弧を描くことなく飛んでいく。
その矢じりは、青白く光を放って、その軌跡がある。
最後に矢が大木に命中した瞬間。矢は、大木に大きな穴をあけて貫いた。
これには、矢を放ったクレアも、それを見ていたビクトルもヒューゴも、少年も驚いた。
周囲に響く大きな音がしたので、村人たちも何事があったのかと様子を見に集まってきた。
みんなあの大木にあいた大きな穴を見て、一様に驚いている。
「十兵衛……。これはどういうことなの!?」
そうクレアは、少年に聞いた。
「おそらくだけど、これまでリッチのフィラクトリー (魂の器) に抑えられていた、クレアの魔法のチカラが解放されたんじゃないのかな」
そう少年は言った。




