可能性
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「わかった。ありがとう」
そう言って少年は、刀二本と、火縄銃をクレアに預けて、風呂に入る。
湯船に入るのはいつぶりだろうか。
元居た世界でも、日本人は湯船によく浸かるが、外国ではあまり湯船に浸かること自体珍しいことだという。それはこの異世界でも同じだった。
それにしても、どうしてクレアにだけ、刀を抜くことができたのだろうか。
クレアがビクトルとヒューゴ、他の人たちとはっきりと違うのは、クレアの身体の中に、リッチのフィラクトリー (魂の器) があることである。
それによってクレアは、リッチのフィラクトリーの気配を感じることができているのだ。
よく考えてみれば、クレアはそのフィラクトリーによって、悪い影響は受けていないのであろうか。
日常でクレアに接していても、そんな様子はない。
普通は、「毒性」のあるものが身体の中に入れば、体調が悪くなるはずである。
しかし、クレアはそうなっていない。
それはリッチが意図して悪い影響が出ないようにしていることなのか、または別に理由があるものなのか。ちょっと考えてみる必要がある。
例えば、科学の世界では、酸( H⁺ )と塩基( ОH⁻ )の中和というものがある。
これはH⁺ + HО⁻ = H2О ( 水 )になり、無害なものになるということだ。
また数学に例えるなら、マイナス5+プラス5は0 ( -5+5=0 )になるということだ。
つまり負の力 (リッチのフィラクトリー) は、なんらかの正の力 (聖なる力) が互いの力を打ち消して、クレアに悪い影響が出ていない可能性がある。
但し、何故リッチが、意図してクレアの身体の中にフィラクトリーを預けたのか、それがわからない。
最初にこのフィラクトリーの話を聞いたときには、単に自らのフィラクトリーをクレアの身体の中に入れることで、フィラクトリーの破壊を防ぐためのことだと思っていた。
果たして、それだけなのだろうか。
そもそも、この異世界で魔法を使えるのは、リッチたち「魔の物」たちだけである。
人間は誰一人として、魔法を使うことはできない。
この異世界で少年の知る限り、リッチたちの魔法に対抗できるのは、少年がこの異世界に来たときに与えられていた三つの武器だけである。
この異世界には、神に対する信仰心はあっても、その神は存在していない。
果たして、本当にそうなのだろうか。
こんな魔法が存在する世界で、「魔の物」だけが存在し、本当に「神」や神の力」は存在していないのだろうか。
湯船に浸かりながら、少年はそんなことを考えていた。




