楽しい夜
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慎重に橋を渡り、そこからは早駆けで馬を走らせる。
敵の気配は感じない。七キロメートルほど馬を走らせて、馬を止めた。
「追手や待ち伏せはありませんでしたね」
そうビクトルが言う。
「そうね。少し馬を休ませながら進んでいきましょう」
そうクレアは言った。
「それなら、オレが一番後ろに付くよ」
少年はそう言った。
「わかったわ。それじゃあ、後ろの護りはお願いね」
「それとクレア。リッチのフィラクトリーの気配の方はどうだい」
そのことを少年は聞く。
「そうね。段々と近づいていっているわ」
クレアは、そう答える。
「なにか気になることでもあるの、十兵衛」
そうクレアは聞く。
「いや……。まだなにもわからない。ただ、ちょっと気になっただけさ」
そう少年は答えた。
実際に、少年は何かに気づいていたわけではなかった。
何の因果で、この世界に来たのかはわからないが、元居た世界では、少年はまだ十七歳の高校二年生である。
この世界に来てから、少年はいろいろと自ら考えるようにはなって、この理不尽な状況を変えようと受け入れたのである。
最初からこの世界の住人であるクレアも、まだ十六歳の少女だ。
これが少年の居た世界だったら、まだまだ思う存分遊びたい盛りだ。現に少年もそうだった。
一緒にクレアを護衛して戦っている衛兵のビクトルとヒューゴも、まだ二十三歳と若い。
この世界に来て、辛いや苦しいことばかりではなく、楽しいことも、もちろんあった。
だからこそ、少年は自分に与えられたチカラでこの世界を平和にしたかったのだ。
だけれども、こんなことはどうも恥ずかしくて言えない。だから心に秘めていた。
日が暮れる前までに馬で進んだが、途中に村はなかった。
それなので、日が暮れる前にクレアが休むためのテントを張り、野営のための準備をする。
薪を集めて、火を起して、そのまわりを囲んでみんなで食事をする。
その食事のあとに、少年はその薪の炎を見ていて、小学生のときの臨海学校でのキャンプを思い出す。
「なぁ、みんなでなにか楽しい歌でも歌わないか!」
そう少年は言った。
「なんなの。突然」
いきなり突拍子もないことを言う少年に、クレアが言う。
「この国では、薪の炎のまわりを囲んで、楽しく歌ったり、踊ったりはしないのかい。オレの居た世界では、たまにだけど、そういうのをしたのさ」
そう少年は言った。
「良いわね。お祭りのときみたいで。みんなで歌って踊りましょう」
そうクレアも少年の提案に賛同する。
その夜は、いつもの夜と比べて楽しかった。




