森の中
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「ごめん。クレア……。辛い思い出を話してくれて、ありがとう」
クレアの話を聞いて、少年は言った。
「ううん。いいのよ。あなたにも知っててほしかったし」
クレアも、少年にはすべてを知っていてほしいと思っていた。
「姫。此処もそろそろ出発しませんと」
ビクトルが言った。
「そうね。出発するわ」
クレアは応える。
馬に跨ったクレアは先頭に立ち、進み始める。
今度は、少年は自分が乗った馬を、クレアの馬の横に並走させる。
幸いにも、この先は普段から馬車が行き来している道らしく、その車輪の跡が残っている。
これなら目の前の森を抜けるにも、道に迷うことはないだろう。
だからこそ、日が暮れて暗くなる前に、この目の前の森は抜けておきたい。
暗くなってしまえば、森を抜けるための目印となる、この馬車の車輪の跡も見えなくなってしまい、その方向を見失ってしまう。
「姫。急ぎましょう」
ビクトルが言った。
「そうね。十兵衛、馬を走らせるわよ! ついてきて!」
そう言ってクレアは、手綱を動かし馬を走らせる。
森に入り、五キロメートルほど進んだところで、幌馬車の車輪が轍に嵌ってしまう。
まだ森の出口の先は見えないが、ヒューゴはこの森に入る前に、それほど深い森には見えなかったので、あと半分ほどで森は抜けられると予想している。
「取りあえず、みんなで後ろから馬車を押しましょう」
クレアが言った。
「では、姫がこの馬車の手綱を持ってください。我々二人が後ろから馬車を押しますので。十兵衛殿は、この馬車に繋ぐ馬を三頭を引いてください」
馬五頭と屈強の大男二人が後ろから馬車を押せば、さすがにこの深い轍からも脱出できるだろうと、みんな思った。
ところが、なかなか轍から抜け出すことができず、ようやく脱出できたのは、もう日が暮れようとしているときだった。
「急いで、この森を抜けましょう! 行くわよ、みんな!」
クレアの号令で、みんな全速力で馬を走らせる。
その後ろを追いかけてくる影がある。
五体のフライングスケルトンだ。
その五体のフライングスケルトンは、少年がこの異世界に来て最初に倒した、コウモリのような翼の形をした、「骨だけの翼」ではなく、まるで骨が浮遊しているようにも見える漆黒の翼で、滑空するように直線的に飛んでいる。
骨の隙間からは、黒い霧のようなものが漏れだしていて、このフライングスケルトンが以前に少年が倒したものより、強いことがわかる。
「駄目です、姫様! こいつらを振り切れません! 先に行ってください!」
フライングスケルトンの二体が、幌馬車の上まで来て、ヒューゴがそう叫ぶ。
「駄目よ! あなたを置いていけないわ!」
クレアも、後ろを確認しながら、そう叫ぶ。
少年は馬の背に乗ったまま、体の向きを後ろ方向に変えると、火縄銃を握る。
「お願いだから、オレのことを振り落とさないでくれよ」
少年は、そう乗っている馬に話し掛けて、火縄銃を構える。
馬が走っているので上下に激しく揺れるため、狙うのは容易ではない。
精神を整えて集中し、幌馬車の上まで来ているフライングスケルトン二体を撃ち抜く。
放った魔弾は、弾丸というより、大きな球体だ。
それなので、フライングスケルトンの体すべてを吹き飛ばす。
その後方から飛んできたフライングスケルトンも、同じように撃ち抜く。
もう追ってくる影は見えない。無事に森を抜けることができた。
「助かったわ。ありがとう、十兵衛」
馬を止めて、クレアが言った。
ビクトルとヒューゴも、胸を撫でおろして、少年に頭をさげた。




