勇者アベルとの別れ
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それでも、リッチのフィラクトリーを探し出して破壊する旅は、容易ではなかった。
そのときに、クレアとアベルが共に旅をしていたのが、ビクトルとヒューゴを含む数名の衛士である。
リッチたち不死の軍団からの攻撃も、三日も待たずに続き、この旅に出た者は。皆、日に日に疲弊していったのである。
そして、未だにフィラクトリーに辿り着くことができず、皆の精神力が限界を迎えようかというときに、デスナイトは再びクレアの前に現れる。
そのときのデスナイトの姿は、伝説で聞いていた通りの、全身を鎧でまとった姿で、鎧の奥には人の姿形は見えず、黒い霧だった。
「久しぶりですな。クレア姫。あの日の草花の上で会った以来だ」
デスナイトは、そう言った。
クレアはそれを聞いて、あの日のことを思い出す。ほんの短い時間の中の身の毛もよだつ出来事だった。
そこに、勇者アベルがクレアの前に立ち、デスナイトに向かって剣を振り下ろす。
デスナイトは、逆にアベルの首元に剣を持っていって止めた。
アベルは、そのデスナイトの剣を薙ぎ払うと、間髪入れずにデスナイトに向けて剣を振るう。
死してなお戦場に立つ騎士と呼ばれるデスナイトも、次第にアベルの攻撃に圧されていく。
このときクレアは、デスナイトの鎧の中に、はっきりとフィラクトリーがあることに気づいた。
「アベル! 奴の鎧の中に、リッチのフィラクトリーがあるわ!」
クレアはそう叫ぶ。
「わかった! クレア!」
アベルはデスナイトを、切り立った壁のところまで追い詰める。
「どうやら、剣技ではオレの方が上のようだな」
アベルは、「勝ち」を確信した。
「どうかな……」
鎧の中のデスナイトの声が、甲高いものへと変わる。
瞬間。デスナイトの体が二つに分かれる。
鎧の中の姿が黒い霧の一つの体はアベルの前にいたままだが、分かれたもう一つの人の姿をした体は、クレアへと向かう。
アベルはすぐさまクレアの方に体の向きを変えて走り出した瞬間。その背中をデスナイトの細く長く伸びた剣が、アベルの鎧ごと背中から胸を抜けて貫いた。
クレアの目の前に迫ろうとしていた、人の姿のデスナイトは、黒い霧となって消える。
「危なかった……。人間の剣も侮れん……」
甲高い声で、デスナイトは言った。
「まぁ、良い。これで勇者アベルは倒せた。また会いましょう、クレア姫」
そのデスナイトの声は、クレアが草花の上で会ったときのものに変わっている。
デスナイトは、目の前に現れた深い闇の中に消えていく。
「大丈夫だったか、クレア」
途切れそうな声で、アベルが言った。
「イヤ! しっかりして、アベル! 死なないで! わたしを一人にしないで!」
クレアは必死に叫ぶ。
「そんな、泣かないでくれよ、クレア。オレは君の笑っている顔が好きだったよ……」
アベルは地面に寝たまま、首だけを起こしてクレアの顔を見て言った。
「一つ心残りなのは、君の花嫁衣装が見られなかったことかな……。幸せにな、クレア……」
そう言ってアベルは、静かに目を閉じて、息を引き取った。
「なんでわたしを残していくの……。アベルーーー!」
クレアの悲しく泣き叫ぶ声が、辺りに響いた。
これがクレア姫と勇者アベルの永遠の別れであった。




