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サムライの格好で異世界に来たんだが  作者: 志村けんじ


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あのときの記憶


「大丈夫かい。クレア」

 大木にもたれて腰掛けるクレアに、少年が声を掛ける。


「ええ。少し落ち着いたわ」

 クレアは優しく答える。


「ごめん。クレア。幻惑だったとはいえ、アベルを斬ってしまって」

 少年はあのとき躊躇なくアベルの幻を斬ってしまったことで、やはりクレアが強いショックを受けてしまっているのではと、それを気にした。


「しょうがないわ。あれは幻だったんだんだものの……」

 クレアは、うつむき加減にそう答える。


「それに……。アベルはわたしのことを守って死んだの……。いるはずがない」


「それでも、わたしの心の中では、まだアベルが生きているわ」

 クレアは、そう気丈に答える。


「アベルとの、たくさんの思い出があるんだね」

 少年は、そう言った。


「そうね。彼はわたしより10歳年上で、大人なの。それでいつもわたしのことを子ども扱いするのよ」

 クレアのその話し方を聞いて、少年は本当にクレアの心の中で、アベルは生き続けているのだなと思った。


「彼と婚約したのは、わたしが15歳のときよ。そのとき彼は、わたしの左手の甲にキスしたあとに、おでこにキスをしてくれたわ」

 それはクレアの、淡い恋心の思い出でもあった。


「でも、あの日……。わたしが城の外で一人でいるときに、あのデスナイトはそれを狙ってたかのように現れたわ……」


 あの日。クレアが一人で城の外の草花の上を散歩していると、全身を鎧でまとった男が、突然現れる。


 男は鎧のゴーグルを上げて、笑顔でこう言った。


「クレア姫。お会いできて光栄です。これをお渡しします。肌身離さず持っていください」

 そう言って男は、黒く光る小さな水晶の球をクレアに渡す。


「では、またいずれお会いしましょう」

 そう言って、その男は目の前に現れた深い闇の中に消えていく。


 そのときには気づかなかったが、それがデスナイトのもう一つの姿だった。


 デスナイトに渡された水晶の球は、気がつくと消えていた。


 そこからクレアは、リッチのフィラクトリーの気配を感じるようになる。


 死の王リッチ率いる「不死の軍団」が、激しく暴れ出したのも、すぐこの後のことである。


 クレアは、そのリッチのフィラクトリーの気配の先に、リッチの姿が見えるときがあった。


 そのことを国王である父に話し、危険を承知の上で、勇者アベルと共に最初のフィラクトリーを探す旅に出たのである。


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