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サムライの格好で異世界に来たんだが  作者: 志村けんじ


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過去の幻


 その少年たちのまわりを、複数の半透明の影のようなものが揺らめく。


 その音は聞こえない。聞こえてくるのは、黒い雷雲からの音だけだけである。


 その影は、次第に間を詰めてくる。


 ビクトルとヒューゴは、クレアの乗る馬の左右に、馬の向きを逆に交差させて警戒する。


 幌馬車の馬二頭は、逃げずに怯えている。


「クレア! リッチのフィラクトリーの気配は?」

 少年は、そのことを確認する。


「しないわ!」

 クレアは、そう答えた。


 この影からは、強力なプレッシャーを感じる。


 そのグルグルと自分たちのまわりを回る影を見ているうちに、景色は晴れた野原へと変わっていた。


 先ほどまで自分たちのまわりを回ってた影も消えている。強力なプレッシャーも消えた。


 クレアたちは、馬を降りる。


 少年も馬を降りた。


 幌馬車と、その二頭の馬だけが消えている。


 そこへ、遠くの方から、馬に乗った鎧姿の男がこちらに近づいてくる。


 そして、その男の顔を、少年以外の三人は知っている。


 それはクレアのかつての婚約者。亡くなったはずの勇者「アベル」だった。


「大丈夫かい、クレア」

 馬を降りて、アベルはそう言った。


「アベル!? どうしてここに!?」

 クレアたち三人は、この幻惑の中で、現実と幻の境を見失っていた。


「そんなのクレアたちが心配だったから、助けに来たのさ」

 アベルがそう言う。


「この少年は?」

 アベルが聞いた。


「ええ。紹介するわ。彼は、佐々木十兵衛よ。サムライらしいわ」

 クレアはそう言って、少年を紹介する。

「なんだい、そのサムライというのは?」

 アベルが聞いた。


「サムライというのは……」

 そうクレアが言いかけたとき。少年は何も言わずに大刀カタナを抜いて、アベルの幻を斬り裂く。


「何をするの!?」

 クレアが叫ぶ。


 ビクトルとヒューゴが、少年に向けて剣を構える。


「冷静になって、クレア。これは幻だよ。アベルはもう死んだんだ。居るわけがない」

 少年は優しく、そう言った。


「そうね……アベルは死んだわ……。もうここには居ない」

 そうクレアが言った瞬間。景色は元の場所へと戻る。


「ごめん。クレア」


「いいの。謝らなくてもいいわ。わたしたちがどうかしてたわ」


 再び、複数の半透明の影のようなものが、まわりを取り囲んでいる。


 今度は速いスピードで、トリッキーな動きを繰り返す。


 カタナでは、追えないスピードだ。


 少年は引き金に指を掛けて、両手で火縄銃を抱える。


 そうして、ある一点から、特に強いプレッシャーがあることに気がついた。


 しかし、その一点も激しく移動を繰り返している。


 少年は火縄銃を構えて、その一点に集中した。


 火縄銃の銃口は動かさずに、ただその一点を狙う。


 そして、その一点が火縄銃の銃口のちょうど先にきた瞬間、少年は引き金を引いた。


「ぐえっ……」

 そう、うめき声がして、まわりを取り囲んでいた、複数の半透明の影のようなものは消えていく。


「なんだったの、あれは……」

 クレアがそう言うと。


「あれは、クレアたちの心の隙を狙った、ただの幻だったんだ」

 少年は、そう答えた。


 あの半透明の影のようなものの正体は、シャドウウィザード。リッチの仲間である。


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