不安の中での出発
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死の間際に、最後にマヒムがクレアに言い残した言葉は、クレアの心に大きな不安をもたらした。
クレアがリッチのモノになるということは、リッチがクレアのことを欲しているということなのだろうか。
その為に生かされていると、マヒムは言っていた。
だからこそ、今まで以上に警戒しなければいけない。
マヒムがいなくなり、二頭立ての幌馬車の御者はいなくなった。
そこでヒューゴが、幌馬車に乗り。馬に乗ったビクトルが、ヒューゴの乗っていた馬を引くことにした。
これだと少し走る速度は遅くなるが、それでもかなり役に立つ貴重な馬だ。そんなに簡単に手放すわけにもいかない。
幌馬車の二頭の馬の方も、ひょっとしたらマヒムに何かされている可能性もあったので、念のために調べてみたが、特に何かされているような様子はなかった。
次の目的地に向かって出発する。
クレアが感じるリッチのフィラクトリーの気配は、今度は西の方だ。
そこまでは、まだだいぶ離れていて、何日掛かるのかはもちろんわからない。
それでも、向かうしかない。
「出発するわ!」
クレアが声を上げた。
先頭にはビクトルが立ち、その後ろにクレア。少年がその後ろに続いて、ヒューゴの乗った幌馬車が最後尾だ。
少年は火縄銃を馬の背に乗せて、いつでも構えられる体勢を取っている。
これは馬に乗ったままでも、リッチたちからの奇襲に備えるためだ。
この異世界に転移してきたとき、少年に与えられていた、この火縄銃は。形こそ火縄銃であるが、発射する弾丸は鉛玉ではなく、少年の魂のチカラによる魔弾だ。
それなので、普通の火縄銃にはできない連射も可能である。
それをあらためて確認するために、少年は出発前の早朝に試し撃ちをしていた。
「十兵衛……」
クレアが少年の名を呼ぶ。
少年は少しだけ馬を前に走らせて、クレアの隣に並んだ。
「どうしたんだい? クレア」
少年も心配になって、声を掛ける。
「お願いよ。わたしのことを護ってね」
クレアは、ただそれだけを言った。
少年は何も言わずに、右手の親指を突き出して笑う。
クレアも、その少年の笑顔に釣られてか、安心して笑った。
そんなことも束の間。辺りが黒い雲で覆われて、急激に暗くなっていく。
ヒューゴは、幌馬車を降りて、ビクトルが引いていた馬に跨り、幌馬車の馬の手綱を引く。
「十兵衛殿……何か感じられますか」
そうビクトルが、少年に声を掛ける。
少年が左手で持った大刀には、その気配が感じられる。
どこから攻めてくるかわからない敵に対して、少年は細心の注意を払いながら、火縄銃を構える。




