マヒムへの疑い
♢
クレアたちが、マヒムが待つ村に着くまでは、やはり3日を要した。
幸いにして、この帰り道には、山賊たちが現れることなく、何事もなく無事に戻ることができた。
ところが、その村に戻ると、待っているはずのマヒムの姿が見えない。
「馬二頭と、幌馬車はあります」
ビクトルが言った。
「しかし、肝心のマヒムの姿が見えませぬ」
ヒューゴが言った。
「おかしいわね。やっぱり、逃げたのかしら」
その可能性は十分にあった。
あらためて、マヒムの行動には不自然なところが多々あった。
最初の忠誠を誓うところまではよかったが、そのあとは妙に非協力的なところが多い。
「まぁ。それならそれで、しょうがないわね」
そうクレアが言ったとき、マヒムが姿を現した。
「皆様。お帰りなさいませ。よくご無事で」
そうマヒムは言ってきた。
「ただいま。あなたのその言い方だと、まるでわたしたちが無事なことの方が不思議みたいね」
クレアがそう聞く。
「いえいえ。何をおっしゃいますやら。このマヒム。皆様の無事な帰りを心よりお待ちしておりました」
マヒムは、少し引き攣った、作り笑顔でそう答えた。
「皆様。さぞお疲れでしょう。宿の部屋も空いているようですし、休まれてはいかがですか」
そう言ってきた。
「そうね。それなら、そうしようかしら」
クレアは、そう答える。
「是非に」
マヒムは、クレアの馬を引き、四人が出発のときに別れた村の宿に案内する。
少年は、この先ほど現れてからのマヒムの様子を、ずっと何気なく観察していた。
マヒムは、少年がこの世界に来て最初のときに、刀が反応した人間である。
あのときは、マヒムの気配に自分が反応して、刀を振ったと思ったのだが、今となって、そうではないような気がした。
今でも、刀の鍔に触れている右手に、なにか刀の反応みたいなものを感じる。
但し、それが何故、刀がマヒムに反応したのかと思ったことについての理由は言えない。
それなので、単に少年の思い込みの可能性もあった。
宿につき、マイムはその宿の雇人でもないのに、四人を部屋に案内する。
少年は、他の者にはその使い方も、それ以前に撃てないあろう火縄銃も持って、宿に入った。
クレア姫は、もちろん一人部屋。ビクトルとヒューゴは同じ部屋の二人部屋。そして少年は、マヒムと同じ部屋にわけられる。
宿の主人やその家族は親切で、食事で下の階に集まったときに、四人に良くしてくれた。
その様子を、マヒムは少し離れた席で、何をするわけでもなく、ただ、じっと見ていた。
部屋に戻り、少年は刀と脇差を、火縄銃を置いていた枕元に並べて、寝る準備を始める。
「では、灯りを消してよろしいかな」
と、マヒムが少年に聞くと、少年は、「はい」とだけ答える。




