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サムライの格好で異世界に来たんだが  作者: 志村けんじ


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死の歌姫


 だがレイスを倒したのに、この深い霧は消えない。


「まったく情けない、レイスの奴め。せっかくリッチ様に授けてもらった腕のチカラを活かせずに、こうもあっさりとやられてくれるとは」

 そう深い霧の中から、女の声がする。


「まったく。私の部下だったっていうのに情けない……。今度、リッチ様にお会いしたときに、どう申し開けばいいっていうのよ!?」

 霧の中の姿の見えない女は、そう怒鳴り声を上げる。


 今度は明らかに、何か禍々《まがまが》しい気配がする。


 それは全員が感じた。しかもその気配が、一方向からではなく、自分たちの周りを囲むようにだ。


「そこのおかしな格好をした若僧。まさかさっき斬ったのが、リッチ様のフィラクトリーだなんて思っていまいな」

 そう、霧の中の女は言った。


「お前たち。よもやリッチ様のフィラクトリーが、そんな簡単に壊せるとは思っていまいな」


 先ほど少年が斬ったレイスの魂は、あくまでレイスの魂であって、リッチの魂の器であるフィラクトリーではなかった。


「なぁ、そうは思わぬか、クレア姫よ」


 その瞬間、クレアの目の前に、霧状の美しい女の顔が現れる。


 クレアは、後ろに跳んで下がり、霧の女から距離を取った。


 ビクトルとヒューゴも、クレア姫の前に立ち、姫を護る体制を取る。


「そんな逃げずともよい。どうせお前たち全員は、ここで死ぬのじゃ」


「ふざけないで! リッチのフィラクトリーは全部見つけて、必ず破壊するわ!」

 クレアは、霧の中の女に向かって、そう力強く言った。


「おぅおぅ。勇ましいのぉ。では、そんな勇ましい姫に、一つ面白いことを教えてやろう」


「どうせくだらない自慢話でしょ」

 クレアは、そう力強く言い返す。


「まぁ、そんなに粋がって焦るでない」

 それでも霧の中の女は、更なる余裕を見せる。


「闇のパラディン、デスナイト様が、不覚にも勇者アベルに追い詰められてしまったあと、死の王リッチ様は、3つの魂の器フィラクトリーを更に分けて6つにした」

 と、霧の中の女は、そのことを教えた。


「これがどういうことかわかるか、クレア姫」


「単にリッチが怖気おじけづいただけでしょ」

 クレアも更なる強気を見せる。


「まったく、口の減らない女だな。よかろう。ならば見せてやろう」


 霧の中の女がそう言うと、深い霧の中から、実体のあるドレス姿の美しい大人の女が現れる。


 その女のドレスは、ボロボロになって汚れていて、女の美しい顔とは反対に、髪は乱れた状態だ。


「お前たちが探しているのは、これであろう」

 そう言って女は、両手を自分の胸に突き刺して、そこを開いて見せた。


 そこには、「黒く妖しい光を放っている黒い球」がある。


「これがリッチ様のフィラクトリーよ……」

 と、女が言い終える前に、少年がカタナでそこを斬りつける。


 ところが、女はカタナで斬られる前に、霧となった。


「まったく。抜け目のない若造め。騎士道というのを知らんのか」

 魔物には似つかわしくないことを霧の中から女は言った。


生憎あいにく、こっちはサムライなんで、武士道なら多少の心得はありますが、騎士道などというものは知りませんね」

 少年は、霧の中の魔物の女に向かって、そう皮肉交じりに答えた。


「よかろう。それならば騎士道というものを教えてやろう」


 そう女は言うと、霧の中から今度は実体のある、頭以外の全身を鎧で覆った姿で現れる。


「我が名は、死の歌姫、バンシーのエクセラ。こうやって、実体を持つのは、およそ200年ぶりじゃ。いざ尋常に勝負いたせい」

 と、完全な戦士の姿で実体を現わしたエクセラという女は、少年に向かって名乗りを上げた。


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