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サムライの格好で異世界に来たんだが  作者: 志村けんじ


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黒い影


 一行は、そこから更に山を2つ越えて森を抜け、少し開けた湖のほとりに出る。


 ここにはまばらではあるが、十数軒の家があるのだが、人が生活をしているような気配が感じられない。


「すみませーーん! どなたかいらっしゃいますか!」

 そう、全員で大声で呼んでも、誰一人として出てはこない。


「おかしいわ。リッチのフィラクトリーの気配も消えたわ」

 この場所というわけではないが、さっきまでクレアがかすかに感じていた、その気配までもが完全に消えた。


 気がつくと、一瞬のうちに辺り一面が深い霧で覆われる。


 ビクトルとヒューゴは、剣を抜き、クレア姫の左右の護りを固めた。


 クレアも剣を抜く。


 少年もクレア姫の前に立ち、カタナを抜いた。


 何かが、ゆらゆらと揺らめいているのを感じる。


 次の瞬間。その揺らめいていたものが、目の前に飛び込んでくる。


 それは人のカタチをしているが人ではない。「黒い影の悪霊」だ。 


 少年はそれをかわすと同時に、カタナで斬りつける。


 が、その一撃は、実体のある鋭い爪で防がれた。


「ケケケケ。これが「魔を斬る」というヤイバか。聞いたほどでもないな」

 その黒く鋭い爪が、少年のカタナをしっかりと掴む。


「十兵衛、気をつけて! 奴はレイスよ! 触れられただけで、生命力を奪われることもあるわ!」


「なるほど……。それじゃ、奴に触れられたら終わりですね」


 少年は思った。このレイスの姿は、明らかに霊体なのに、肘から爪にかけてだけは実体がある。


 その実体の感触は、掴まれているカタナからも伝わってくる。


 それならば。


 少年は、レイスに爪に掴まれているカタナを、その爪を軸にして左右に振り、テコの原理のようにして外した。


「ケケ……」

 そうレイスが余裕を見せたとき、少年のカタナが、レイスの実体のある両手首を斬り落とした。


「うぎゃーーー!?」

 両手首を斬り落とされたレイスは叫び声を上げる。


 少年が思った通り、カタナは、実体のある「魔物」ならば斬ることができる。


 では、「霊体」はどうなのか。


「やはり、貰っていた情報に間違いはなかったということか……。その「魔を斬るヤイバ」は、やはりあなどれないようだな。だが……まだこれからだ」


 そう言ってレイスは、手首を斬り落とされた両腕を前に突き出した。


「リッチ様に新しく授けてもらったこの腕。こんなことごときで終わるものか」

 そう言うと、地面に落ちていた両手が、本体の腕に引き寄せられて元に戻る。


「ケケ」

 次の瞬間。レイスは再び、その鋭い爪で少年に襲い掛かる。


 少年は、このレイスの「黒い影の中にある魂」を、カタナを通して感じた。


 そこを狙ってカタナを振るう。何かゴムボールに近い柔らかい感触のある球体を斬り裂いた。


「そんなはずはない……。何故オレの魂の位置がわかった……」


 レイスの「黒い影」は、黒い霧となって消えた。


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