魔物以外
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死の王リッチの3つに分けられたうちの一つの、「魂の器フィラクトリー」を追って、クレア姫一行は山の麓までやって来た。
マヒムにとっては幸いなことに、村があったので、マヒム一人だけ村の宿に滞在して、クレアたちの帰りを待つこととなった。
「では、いってらっしゃいませ。皆様お気を付けて」
マヒムは、もっともらしいことを言って一行を見送る。
このマヒムについては、旅に出て一週間を過ぎたあたりから、少し不信感があった。
自ら一行の旅にお供したいと言ってきたわりには、旅の進行を足止めするようなことがよくあったからだ。
但し、明確な裏切りの証拠があるかと言えば、それはない。
それなので、一旦マヒムを切り離してみたというのが、クレアの判断だ。
山と山の間の獣道のような馬車道を、馬で進んでいき、ようやく一つ目の山を抜けようとしたとき、一行を取り囲むように、山賊が現れる。
「へへへへっ。見たところ、貴族様のようだが、痛い目にあいたくなければ、金目のものを置いていきな」
この山賊たちの首領が、そう言って脅してくる。
「そこの若くてきれいなオンナも、もちろん置いていきな」
そのうちのもう一人が言った。
取り囲んでいる山賊の数は、全部で12人。みんなそれぞれに、手に剣や斧などの武器を手にしている。
「ふざけないで! あなたたちのようなものに渡すものなど一つもないわ!」
クレアは、勇敢に山賊たちの要求を断る。
「へへへへ。そういう気の強いオンナは好きだぜ」
欲望の眼差しで、山賊は返した。
「ところで、その変な格好をした若僧はなんだ? ずいぶんと細いのを腰のベルトに差しているようだが。それが剣か?」
別の一人が、少年の刀を見て言った。
この突然の状況に、少年は驚くほど冷静だった。
この山賊たち全員を相手にしても、剣術で負ける気はしない。
ただ、この魔物以外は斬れない刀で、山賊たちを斬れるのだろうか。
もしできたとしても、実際に人を斬るなどということが、自分にできるのだろうかという不安もあった。
それでも、クレア姫を護るために、少年は馬を降りる。
ビクトルとヒューゴも、馬を降りて、クレア姫の乗った馬の前後に立ち、剣を抜く。
「姫様は、もしものときはお逃げください」
ビクトルが言った。
「この国を救うためには、どうしてもクレア様のお力が必要なのです」
ヒューゴが言った。
少年は、左手を鞘に掛け、右手を柄に添える。
刀が、「カタッ」と反応する。
山賊の一人が、少年に向かって剣を振り下ろしてくるのに合わせて、抜刀する。
少年は刀に導かれるように、刃をその山賊の腹に打ち込んだ。
斬ることはできなかったが、飛ばされるように、その山賊が後ろに倒れる。
後ろから別の山賊が少年に斬りかかるが、また刀に導かれるように、少年はその山賊をあっさりと倒した。
魔物以外は斬れないと思っていた刀は、確かに魔物以外は斬れない。それでも向かってくる相手を倒せるということはわかった。
次々と、少年に向かって山賊たちは、剣や斧で斬りかかってくるが、少年の思った通り、勝てない敵ではなかった。
山賊の首領を含めて、残り3人。
少年は、刃の先を、その3人に向ける。
倒された9人は、気絶しただけで生きているようだが、すぐに起き上がってくる気配もない。
「へへへへ。みんな、命拾いしたな。逃げるぞ!」
そう言って、その残った3人は、森の中に姿を消した。
この山賊の首領が最後に言った、「みんな、命拾いしたな」は、果たしてどちらに向かって言ったことなのだろうか。
このあと、この山賊たちが、一行の前に再び現れることはなかった。
倒された山賊たち9人は、やはり気絶しているだけで死んではいなかった。
それに少年は、ほっと胸を撫でおろす。
ただこれで、刀の別の能力もわかった。
「ありがとう。十兵衛。助かったわ」
クレアは、少年をハグした。
少年は、その初めての経験に、照れくささを感じた。




