フィラクトリーの気配
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「でもね。リッチのフィラクトリーを、強く感じるときもあるのよ」
「それは、デスナイトの気配みたいなのを感じるということですか?」
クレアは、少年に自分のことを信じてほしいと思ったのだろうか。少年も、そのクレアの気持ちに応えるように質問を返す。
「なんというか、そのフィラクトリーの気配を感じることも、もちろんあるのだけれど、見えるの」
クレアは、少年にそう答えた。
「見える? その見えるって、どういうことですか?」
少年は、その思ってもいなかった答えに、更に質問を返す。
「言葉のとおりよ。フィラクトリーの黒い光が見えるの。まるで黒曜石が、黒い強い光を放っているようにね」
クレアは、そう説明する。
「今は?」
そう聞いた。
「その黒い光は見えないけど、ずっと遠くに気配を感じるわ」
クレアは、その気配のする、遠い山の向こうを指差す。
「あの。質問いいですか」
「なに?」
「その気配は、動いていますか」
もし、デスナイトのように、魂の一つを与えられているならば、動いているはずだ。
「動いていないわね。ずっと一か所に留まっているわ」
それを聞いて、少年はそんな動かない物に、「自分の魂の一つを分けた」のかと疑問に思った。
これがもし、「本当に動かない物」だったとしたら、「クレア姫をおびき寄せるための罠」である可能性が高い。
リッチが、「魂の器であるフィラクトリーの場所がわかるクレア姫」を、そのまま放っておくはずがないと少年は思った。
「その場所までは、どれぐらい掛かるでしょうか」
「おそらくは、丸二日。それ以上かも。この先の山も越えなきゃならないし、馬たちにも無理はさせられないわ」
クレアは、ここまで自分たちを運んでくれた馬たちを気遣った。
「あの。すみません」
これまでずっと黙ったまま、幌馬車でついてきていたマヒムが口を開く。
「私はどうしましょう? この幌馬車では、あの険しい山はおそらく越えられそうにありませんが、いかがいたしましょうか」
「そうね。あなたは山の麓に村があったら、そこで待っていてちょうだい」
「その村がなかったら?」
マヒムは、その際のことも聞いた。
「そのときは……。そこで野宿して待っててもらうしかないわね」
「それは、どれぐらい?」
「わからないわ。嫌なら、ここに馬車と荷物を置いて帰ってもいいのよ」
クレアは、マヒムにそう言って突き放す。
ここまでマヒムは、黙ってついてはきたが、それでも態度ではわかる。
この旅についていきたいと言ってきたのはマヒムの方からだったが、明らかにずっと不満がある様子だった。
それなので、ここでクレアは、マヒムを試してみたのだ。
「いえ。これからもお供させていただきます」
マヒムは、真顔でそう答えた。
「わかったわ。では、先ほど話したとおりに」
「わかりました」
このとき、マヒムはクレア姫の顔を見てはいなかった。




