旅立つ前に
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「で、姫さんさー」
「クレアよ。なんだか、いきなり馴れなれしくなったわねー」
「では、クレア姫さま。お供するにあたって、他に約束してほしいことがございます」
「その、急にかしこまった話し方をされるのも、なんだか嫌だわ」
「では、わたくしめにどうしろと」
「クレアでいいわ。わたしのことは、クレアと呼んでちょうだい」
実は少年は、クレア姫との心の距離を縮めるために、わざとあの様な言い方をしていた。
少年にとってクレア姫は、ただの突然現れた、立場上の「お姫様」でしかない。
それなので、特に思い入れとか、そういった類の感情は一切ない。
だから少年は、「これから仲の良い友だちを、最後まで護り切る」としたのだ。
これから命の天秤により、この先どうなるかわからない状況の中で、すぐにでも強い信頼関係を築くためには、敢えてあの様な態度をとって、無理やりにでも、クレア姫と仲良くなる必要があった。
ここで、クレア姫が怒ってしまうようであれば、おそらく、志半ばで終わってしまうことだろう。
「では、十兵衛。これから、よろしく頼むわ」
「承知しました。では、クレア。オレは、みんなと違って、あなたのことを知りません。まず、年齢を教えてもらえますか」
「十五歳よ。もう少しで、十六歳になるわ」
「ということは、オレと、たったの一つ違いということですね」
「なに!? その言い方!?」
「いえ。別に」
少年は、まだ十五歳の少女が、戦場に立たなければならないのかとなげいた。
自分も、まだ十七歳になったところだが。それでも自分は、男である。
こんなことを、元の世界で言ってしまえば、「格好をつけている」だとか、「きれいな女の前だから、良い格好をしている」とか言われて叩かれることだろう。
だが、ここは、「あの世界」とは違う。
「それと、他に護衛は、何人付けるつもりですか?」
「ビクトルとヒューゴ。この二人よ。これまでも、ずっとわたしのことを護ってきてくれた衛士よ」
クレアは、後ろに控えていた、赤マントの全身を鎧でまとった、身長が一九〇センチメートルはある屈強そうな二人の男を紹介する。
ブラウンの髪の男の方がビクトル。黒髪の男の方がヒューゴと、クレアは紹介した。
「なるほど。お二人とも強そうだ」
この衛士の二人は、ずっと少年のクレアに対する非礼な態度に腹を立てることもなく、一切表情を変えずに、まっすぐに前を見ている。
これなら安心だろうと、少年は思った。
そして少年は、なにも上から目線で、クレアや衛士二人を見ているわけではなかった。
少年は、自分の最後の役目は、「死の王リッチ」を、自身が持つ、自分にしか使うことができない、この「不思議な刀」で斬ることではないかと考えていた。
そう考えれば、これまでのことも、すべて合点がいった。
「あの……。もし、差し支えなければ、私にもお供をさせてもらえませんか」
そう言ってきたのは、あのとき少年が刀の刃を、寸でのところで止めた、村人の男だった。
「マヒムと申します。みなさんの荷物を馬車で運ぶ、荷物持ちも必要でしょう。幸い私には、妻も子も居ませんし、父も母も亡くなって居りません。それなので、死んで悲しんでくれる家族は居ません」
「そう。それも悲しいわね」
クレアは、この男の身の上に同情した。
「国のために、この命を賭ける所存です」
「わかったわ。お供をお願いするわ。但し、自分の命は、自分で護ってちょうだい」
「ありがとうございます」
ここから、この五人で、「死の王リッチ」の「魂の器であるフィラクトリー」を探す旅が始まる。




