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覚えのある色気

閻婆惜でございます。


本日は、二龍山との盟約を正式に結ぶお話でございます。

文を何度も交わした潘巧雲様とも、ようやく直接お会いすることになりました。


先に申し上げます。

たいへん美しい方でした。


ただし、私とは美しさの種類が違います。

私を見た男性は、まず姿勢を正し、何か不備がなかったかを確かめます。

潘巧雲様を見た男性は、理由もないのに近づきたくなるようです。

淡い衣に控えめな髪飾り。

肌を見せているわけでもないのに、山門の男たちは顔を上げられただけで動きが半拍遅れました。


この現象には、前世で覚えがございます。

先輩が会議室へ入った時も、男性社員の返事が少し遅れました。

婚約が知られた日など、社内の一部が喪中のようになったものです。

もちろん、顔も名も時代も違います。

同じ会社にいた二人が、そろって水滸伝の女へ生まれ変わるなど、業務設計として無理がございます。

そう思っておりました。


ところが覚書を確認すると、気になる箇所へ同時に指が止まりました。

曖昧な文言を嫌い、責任者を明らかにし、余白を見つければ後から書き足されないよう斜線を引く。

仕事の進め方まで、前世の先輩に似ております。

似すぎております。

ですが、今ここで本人確認を始めれば、晁蓋様たちへ九百年後の会社から説明しなければなりません。

ひとまず、盟約を優先いたしました。


そして、梁山泊と二龍山は正式な同盟を結びます。

問題は、その後の宴でございました。

潘巧雲様が盃を持ち、ほんの少し微笑んだだけで、梁山泊の男性陣が一斉に前かがみになったのです。

晁蓋様、宋江様、林冲様、李俊様、李応様は無事でした。

ほかの皆様については、梁山泊の名誉のため、詳しい報告を控えたいと思います。


なお、扈三娘様は途中で理由を察して爆笑し、玉楼様は集団の腹痛だと思っておられました。


私だけは、笑っている場合ではございません。

男性陣を前かがみにした潘巧雲様が、盃の向こうから私を見て、こう尋ねられたからです。

「同じ結果になりましたか?」

何と同じなのか、彼女は説明なさいませんでした。


――どうやら、前世を疑っているのは私だけではないようです。

その方を見た瞬間、私は覚書より先に、前世のことを疑いました。

二龍山の一行が梁山泊へ着いたのは、昼を少し過ぎた頃です。

先頭に魯智深様、その隣に楊志様と武松様。

三人から少し離れて、迎児様が文箱を抱えております。

そして、その横に潘巧雲様が立っておられました。

淡い色の衣に、飾りは控えめでした。 胸元を開いているわけでも、香を強く焚いているわけでもありません。

それでも目を伏せて礼をし、顔を上げただけで、山門にいた男たちの動きが半拍遅れました。

艶とは、見せるものではなく、漏れるものなのでしょうか。

目元はやわらかく、口元にはかすかな笑みがあり、袖からのぞく指先にまで妙な色気があります。

本人は見られることに慣れているのか、怯えも驕りもございません。

その自然さが、近づいても拒まれないのではないかという、根拠のない期待を男性へ抱かせます。

たいへん厄介です……

そして、この現象には覚えがございました。

前世でも、先輩が会議室へ入ると、男性社員の返事が少し遅れました。

質問のない方まで用事を作って話しかけに来ます。

婚約が知られた日には、何人もの男性社員が仕事をしながら静かに絶望しておりました。

もちろん、目の前の方が先輩だと決まったわけではありません。

顔も名も時代も違います。

同じ会社にいた二人が、そろって水滸伝の女へ転生するなど、慰安旅行としても行き先が悪すぎます……

「二龍山で文書を預かっております、潘巧雲と申します」

名乗る声を聞いた途端、無理のある業務設計が本当に動いている可能性を、私は捨てきれなくなりました。

「梁山泊の窓口を務めております、閻婆惜でございます」

私が礼を返すと、潘巧雲様は一度だけ私の手元をご覧になりました。

文箱の抱え方を確かめたようにも見えます。

その後でもう一度目が合い、互いに何も言わないまま、相手を観察する時間が生まれました。

会談は聚義庁の隣にある客殿で行いました。

酒は盟約を結んだ後です。

酔った勢いで条文を増やされては困りますし、翌朝になって覚えていないと言われても差し戻し先がございません。

梁山泊側は晁蓋様、宋江様、呉用様と私……

二龍山側は魯智深様、楊志様、武松様、潘巧雲様です。

迎児様は控えの文を順に並べ、求められた一枚を迷わず差し出しました。

仕事のできる方の隣には、仕事のできる補佐が育つものです。

卓の中央へ、同じ内容の覚書を二通置きました。

梁山泊と二龍山は対等であり、一方が他方へ服従を求めない。

相手の領分へ無断で人を送り込まず、本人の意思を確かめないまま引き渡しや移籍を要求しない。

争いが起きた時は、まず文で事情を照会する。

救援を求められた側は内容を確かめ、自らの山寨で協力するかどうかを決める。

吸収でも、配下の交換でもありません。

別々の山が、相手を都合よく使わないための約束です。

呉用様が救援についての条文を指されました。

「急を要する時は、文を待たず兵を出せるものとする。この一文は残した方がよいのではありませんかな?」

「その文言では運用できません」

私と潘巧雲様の声が重なりました。

彼女も、まったく同じ箇所へ指を置いております。

「誰が急を要すると判断するのか、決めておく必要がございます」

潘巧雲様が先に言いました。

「後から、救援が義務だったと言い換える者も出るでしょう」

私が続けると、彼女の目がわずかに細くなりました。

「同じことを考えておられたのですね」

「便利な言葉ほど、悪用されますので……」

「ええ……決めたつもりになる文が、一番危険です」

胸の奥がざわつきました。

前世の先輩も、よく同じことを言っておりました。

誰が、いつ、どこで、何をするのかが分からない資料は、まだ何も決めていないのと同じです。

この時代にも似た考えの方はいるでしょう。

しかし、言葉の置き方まで似るものでしょうか?

条文は、急を要する場合には各山寨の頭領が判断し、後から使者を立てて事情と経緯を知らせる形へ直しました。 兵を動かした方と、命じた方と、結果の責任を負う方を曖昧にしないためです。

「戦の後で、そこまで文を残せるものか?」

楊志様が眉を寄せられました。

「戦いながら書けとは申しません」

潘巧雲様は穏やかに答えます。

「終わった後、誰も責任を覚えていない状態を避けたいのです」

「覚えていても、自分に都合よく語る者はいる」

武松様が言われました。

「ですから、文へ残します」

また、私たちの声がそろいました。

魯智深様が大きな声で笑われました。

「お前たち、本当に初めて会ったのか?」

「このように向かい合うのは、初めてでございます」

潘巧雲様が答えました。

私は顔を上げました。

彼女はすでに覚書へ目を戻しております。

このように――

聞き返したところで、いくらでも別の意味へ逃げられます。

文だけを交わしていた相手と、今日初めて会った。

それだけの意味だと言われれば、何も追及できません。

曖昧な表現を嫌う方が、ここだけ逃げ道を残しました。

私も追及しませんでした。

今は、両山の盟約を成立させることが先です。

前世の本人確認を議題へ追加すれば、晁蓋様たちへ何から説明すればよいのか分かりません。

最終案を読み終え、晁蓋様と魯智深様が印を押しました。

宋江様、呉用様、楊志様、武松様も内容を確かめ、同じ文を両山で一通ずつ保管します。

最後に余白が残りました。

私が筆へ手を伸ばすと、潘巧雲様も同時に動きます。

「後から書き足せますね」

今度は、言葉まで同じでした。

私は梁山泊で保管する文へ、彼女は二龍山へ持ち帰る文へ斜線を引きました。

線の角度までほとんど変わりません。

「まっすぐでないと、気になりますか?」

潘巧雲様が尋ねられました。

「曲がっておりますと、見直すたびに気になります」

「私もです」

それ以上は話さず、互いに筆を置きました。

こうして、梁山泊と二龍山の同盟は正式に成立しました。

白い帳面の中でも、二つの山を結んでいた線が太くなり、潘巧雲様の名が入った四角は揺れを止めました。

ようやく、一件決裁完了です。

その後、聚義庁へ場所を移し、同盟を祝う宴が始まりました。

会談に出ていなかった頭領たちも加わり、林冲様、李応様、李俊様たちも梁山泊側の席へ着きます。

扈三娘様と玉楼様も、林冲様の隊の者として同席しておられました。

二龍山側では魯智深様が早くも大盃を求め、武松様が付き合っております。 楊志様は二人を見張りながら、自分の盃にもきちんと口をつけていました。

潘巧雲様は迎児様から盃を受け取り、晁蓋様へ礼を述べます。

「このたびは、二龍山を対等な相手として迎えていただき、ありがとうございます」

そう言って、ほんの少し身を乗り出されました。

衣が乱れたわけではありません。

ただ、袖口から白い指がのぞき、目元をやわらげて微笑まれただけです。

それだけで、梁山泊側の男性陣の多くが一斉に前かがみになりました。

呉用様は扇を膝の前へ移し、朱貴様は落としてもいない箸を卓の下へ探し始めました。

ほかの頭領方も、急に料理や盃へ強い関心を持たれたらしく、誰も顔を上げません。

平然としておられるのは、晁蓋様、宋江様、林冲様、李俊様、李応様です。

晁蓋様はそのまま返礼をし、林冲様は姿勢を変えずに盃を置かれました。

李応様は隣へ料理を回し、李俊様は騒ぎそのものに関心がない顔で座っております。

李俊様――

やはり貴方は、超優良物件でございます。

宋江様は一度だけ、私の顔を確認なさいました。

先日の夫婦間の案件が、思わぬところで梁山泊の品位を守ったようです。

今回ばかりは、前向きに評価いたします♪

向かい側で、扈三娘様が男たちを順に見ました。

「……どうして、みんな急に前かがみなの?」

誰も答えません。

潘巧雲様を見て、もう一度男たちへ目を戻したところで、何かに気づかれたようです。

口元を押さえ、肩を震わせ始めました。

「え……まさか……?」

「扈三娘様」

玉楼様が心配そうに身を寄せます。

「皆様、同じ物を召し上がって腹を痛められたのでございましょうか?」

扈三娘様はとうとう卓へ顔を伏せました。

「玉楼、今は聞かないで……お願いだから……」

笑いをこらえているつもりなのでしょうが、まったく隠せておりません。

潘巧雲様は前かがみになった男性陣を見渡しました。

「梁山泊の皆様は、ずいぶんお疲れのようですね?」

何も知らない方の顔でした。

ですが、私は知っております。

前世でも先輩は、自分へ見惚れて会議の説明を聞き逃した男性社員に、同じ顔で資料を差し戻しておりました。

「長い山暮らしですから、いろいろと溜まっているのでしょう」

私が答えると、潘巧雲様の口元の片側だけが、ほんの少し上がりました。

その笑い方にも、覚えがございます。

「閻婆惜様は、先ほどから私ではなく、周りの方ばかりご覧になっていますね」

「確認したいことがございましたので……」

「同じ結果になりましたか?」

盃へ触れていた私の指が止まりました。

何と同じなのか、私は尋ねませんでした。

潘巧雲様も説明なさいません。

ただ、盃の向こうから私を見つめる目だけは、前世の先輩とよく似ておりました。

そして、どうやら――

彼女の方にも、私の覚えがあるようです。

本件、閻婆惜よりご報告いたします。


梁山泊と二龍山の間に、正式な盟約が成立いたしました。

どちらかが上に立つのではなく、互いの領分へ勝手に踏み込まない。

救援を求められても、事情を確かめずに兵を動かさない。

人の引き渡しや移籍については、まず本人の意思を確認する。

たいへん地味な盟約でございます。


ですが、華々しい言葉を並べるより、破った時に何が問題だったのか分かる文の方が役に立ちます。

今回の関係は、梁山泊が二龍山を取り込んだものではありません。

二つの山寨が、別々の判断を持ったまま手を結んだのです。


始まりは、楊雄様から逃れた女二人についての照会でした。

一人の女性が、生き延びるために自分の意思を文へ残した。

その文が梁山泊の動きを止め、やがて二つの山を結ぶ覚書にまでなりました。

攻略本には、潘巧雲様が山寨の窓口となり、魯智深様や楊志様の間で文を整え、梁山泊との同盟を成立させるとは書かれておりません。


当然です。

本来なら、もう亡くなっている方なのですから……

生き残った方には、攻略本にない仕事が生まれます。

その仕事を誰が担うかまで、古い筋書きが決められるはずはございません。


問題は、潘巧雲様の仕事ぶりに、あまりにも覚えがあることです。

文を直す順序も、余白を残すことを嫌うところも、相手へ逃げ道を与えながら回答だけは先延ばしにさせない運びも、前世の先輩とよく似ております。

偶然で片づけるには、少々一致しすぎております。


とはいえ、前世の本人確認には使える書類がございません。

氏名も生年月日も顔も異なり、戸籍に至っては九百年ほど時代が合いません。

これでは、どの部署へ照会しても差し戻されるでしょう。


そして、本人へ直接尋ねることもできません。

「貴女は前世で私の先輩でしたか」と口にした瞬間、周囲の皆様から説明を求められます。

同盟覚書より難しい案件を、宴席で新規に立ち上げる気はございません。

ですので、今夜は何も確かめないつもりでした。

少なくとも、私はそのつもりでございます。


宴は、まだ始まったばかりです。

潘巧雲様が、次の盃を持って私の隣へ移ってくるまでは……

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