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入山したのではありません

閻婆惜でございます。

本日は、李家荘の皆様が梁山泊へ到着いたします。

李応様と杜興様。

女中、子供、年寄り。

家財、帳面、馬まで、まとめて運ばれてまいりました。

攻略本には、李応様が梁山泊へ入るとしか書かれておりません。

ですが、これは入山ではございません。

帰る場所を焼かれ、残る以外の道を奪われただけです。

さらに、白秀英様という女性まで御一緒でした。

李応様は、彼女を御夫人として扱うよう求めておられます。

承知いたしました。

では、部屋も同じでよろしいですね。

その前に――

李家荘へ火を放った方へ、確認しなければならないことがございます。

李家荘は、梁山泊へ入ったのではありません。

帰る場所を焼かれ、家人も家財も、荷車ごと運び込まれました。

急報を受けて山寨の門へ向かうと、土埃が風に乗って流れてきました。

山道の向こうから、車輪の軋む音が続いています。

李応様と杜興様は、すでに門前にいました。

お二人だけ先に連れてこられたのでしょう。

李応様の左腕には包帯が巻かれ、杜興様の衣にも乾いた血が残っています。

それでも、傷を気にする様子はありません。

ただ、山道を上がってくる荷車の列を見つめていました。

攻略本には、李応様が梁山泊へ入るとしか書かれていません。

負傷した後、説得を受けて入山する。

記載は、それだけです。

屋敷を焼かれるとも、家財を運び出されるとも、家人まで欺かれるとも書いていない。

簡潔にも程がございます……

やがて、先頭の荷車が門をくぐりました。

女中、子供、年寄り。

誰も声を上げません。

泣き疲れた顔で、命じられるまま荷台から降りています。

「州府では、ないのですか……」

女中の一人が、かすれた声で尋ねました。

答える者はいません。

目の前にあるのは役所ではなく、柵と見張りと、武器を持つ男たちです。

騙されたと気づくには、それで十分でした。

最後の方で、頭巾を深くかぶった女性が地面へ降りました。

足元がふらついています。

女中たちに紛れようとしていましたが、無理でしょう。

疲れ切り、顔を伏せていても目を引く方です。

何人かの男衆が、早くも視線を向けていました。

私は近くの女衆へ、子供と年寄りを先に囲むよう命じました。

その時です――

頭巾の女性が顔を上げました。

視線の先には、李応様がいます。

一歩。

続いて、もう一歩。

次の瞬間には走り出していました。

「李応様っ……!」

泣き声でした……

李応様が右腕で受け止めます。

左腕を傷めているため、女性の身体を少し横へ逃がしながら抱き留めました。

「秀麗」

李応様が、その名を呼びました。

女性は胸元へ額を押しつけ、御無事でよかったと何度も繰り返します。

周囲がざわめきました。

当然です。

李応様は、梁山泊へ来てから誰にも心を許していません。

その方が、人目も構わず駆け寄った女性を抱き留め、離そうとしないのです。

「何があった」

問われた女性は、すぐには答えられませんでした。

息を整えようとしても、涙が止まらない。

やがて、掠れた声で言いました。

「屋敷が……燃えました」

李応様が動きを止めます。

「家財も、人も、全部運ばれて……蔵も、帳面も……それで、火を……」

「見たのか?」

「はい」

「そなたが……」

「……はい」

杜興様の拳が固く握られました。

李応様は怒鳴りません。

その方が、かえって恐ろしい。

帰る場所を失ったと、今ここで初めて知らされたのです。

入山ではありません。

勧誘ですらない。

家を焼き、財産と家人をこちらへ移し、残る以外の選択肢を消した。

これを策と呼ぶのでしょうか。

成功と記録するのでしょうか。

私には、後始末を考えていない放火にしか見えません。

その場で呉用様を呼びたくなりました。

ですが、先に処理すべき問題が、人垣の向こうから歩いてきます。

「おいおい、何だ、あの女は」

王英様でした。

扈三娘様から明確に拒絶されたばかりです。

立ち直りが早いという言葉では済みません。

反省する機能が搭載されていないのでしょう。

王英様は人垣を抜け、李応様の背後を覗き込もうとしました。

「随分と色っぽいのが来たじゃねえか」

女性の肩が震えます。

李応様が、すぐにその身を背後へ隠しました。

「下がれ」

声に怒気が混じります。

王英様は足を止めません。

「見るくらいはよかろう。李応殿、その女は――」

「下がれと言った」

杜興様も前へ出ました。

王英様は二人を見比べ、笑っています。

女に手を出したわけではない。

話しているだけだ。

そう言いながら、さらに近づきました。

話をする者は、相手が怯えていれば止まります。

止まらない時点で、目的は会話ではありません。

女性は李応様の衣を掴み、身体を小さくしていました。

王英様が手を伸ばします。

頭巾か、袖か……

どこへ触れるつもりだったのかは分かりません。

乾いた音がしました。

李応様が右手で、その手首を打ち払ったのです。

ほぼ同時に、杜興様が踏み込みました。

王英様の身体が横へ崩れ、土の上を転がります。

悲鳴より先に、周囲の男衆が下がりました。

言葉による注意喚起より、はるかに理解が早い。

残念な職場です……

「触れるなと言った」

李応様の声は静かでした。

「次は腕で済まぬ」

王英様の傍らに立った杜興様は、さらに静かです。

地面に転がった王英様から、ようやく笑みが消えました。

李応様は周囲を見回し、李家の者にも、女中にも、子供にも手を出すなと言い渡します。

「俺の家の者だ」

女中たちの表情が、わずかに変わりました。

屋敷は燃えた。

それでも李応様は、家の者だと言った。

建物を失っても、李家までなくなったわけではありません。

李応様は、頭巾の女性へ向き直りました。

「秀麗」

「はい」

「ここでは、白秀英と名乗れ」

聞き覚えのある名でした。

鄆城県で歌舞を生業としていた、白玉喬の娘。

攻略本にも、雷横の事件に関わる女性として載っています。

ただし、李応様のもとへ運ばれてくるとは書かれていません。

また、攻略本にない展開です。

「問われたなら、俺の夫人と言え」

白秀英様が固まりました。

「ふ、夫人……ですか?」

「ああ」

李応様は、安全のためだと説明しました。

素性の曖昧な女性として置けば、王英様のような者がまた近づく。

自分の夫人とすれば、軽んじる者は減る。

理にかなっています。

少なくとも、今の梁山泊では最も早い保護手段です。

ただし、白秀英様が、

「李応様の、夫人……」

と口にした途端、李応様の目が明らかに揺れました。

杜興様は咳払いをして、顔を背けています。

方便だけではなさそうです。

夫人という札を使う以上、組織上の扱いも合わせなければなりません。

名乗りだけを決め、部屋も警護も曖昧なままでは、また現場が混乱します。

私は人垣を分け、三人の前へ進みました。

「王英が失礼をいたしました」

李応様が目を細めます。

「そなたは」

「閻婆惜と申します」

まず、白秀英様を見ました。

「白秀英様、でよろしいですね」

「……はい。白秀英です」

緊張しています。

ですが、私を恐れているだけではありません。

何かを探るような目でした。

「では、こちらでは李応様の御夫人として扱います」

「ふ、夫人……」

声がわずかに裏返りました。

李応様も何か言いかけましたが、御自分で決めたことです。

今さら取り消しは受け付けません。

「白秀英様と、李家の女中、子供、年寄りには、男衆を不用意に近づけません。用件は杜興様を通します。荷の確認には女衆を立ち会わせます」

杜興様が頷きました。

「助かる」

「当然の措置です。皆様は自ら望んでここへ来たわけではありません。扱いを誤れば、こちらの不手際になります」

李応様の顔が硬くなりました。

「その不手際を、そなたが処理するのか」

「誰かが処理しなければ、傷口が広がります」

連れてくるなら、受入れ先まで決めるべきでした。

女中と子供の部屋。

家財の保管場所。

李応様の立場。

白秀英様の扱い。

何一つ用意せず、人と荷だけ送り込むなど、現場への丸投げです。

その言葉を口にした瞬間、白秀英様が顔を上げました。

ほんの一瞬です。

しかし、聞き慣れた言葉に反応したように見えました。

私はそのまま指示を続けます。

「白秀英様……しばらくは李応様のそばを離れないでください。男衆から直接話しかけられても、返事をする必要はございません。用件は杜興様へ」

「はい」

「王英様が近づいた場合は――」

「全力で逃げます」

即答でした――

この時代の女性が、王英様を前にして使うには、妙に聞き覚えのある言い方です。

白秀英様も、こちらを見ています。

私が何に引っかかったのかを確かめるような目でした。

まさか――

またですか。

扈三娘様に続いて、この方まで……

社長室前は、何人をこちらへ送り込んだのでしょう……

「逃げる前に、知らせてください。こちらも動きます」

「……はい」

白秀英様は視線を伏せました。

確かめるのは後です。

今は人が多すぎます。

「李応様と白秀英様には、同じ部屋をご用意いたします」

今度は、お二人が揃って私を見ました。

夫人として扱えと決めたのは、李応様です。

まさか、呼称だけ夫人にして、別室へ置くおつもりだったのでしょうか。

「白秀英様の扱いは山寨内へ周知いたします。男衆は不用意に近づかない。御用の者は杜興様を通す。異論はございますか」

「ない」

李応様は即答しました。

「周知が行き渡るまでは、俺のそばから離さぬ」

白秀英様の頬が赤くなりました。

分かりやすい方です。

李応様も、気づいていないとは思えません。

それでも一歩距離を取り、白秀英様へ余計に触れない。

紳士でいようとなさっています。

いつまで保つかは存じません。

私は女衆へ部屋の準備を命じ、子供と年寄りから奥へ案内させました。

荷は開けず、数と置き場所だけを記録する。

帳面は別に確保し、李応様か杜興様の立会いなしには触れない。

ようやく、門前の混乱がほどけ始めました。

白秀英様は、李応様の少し後ろから離れません。

私を見る目には、まだ問いが残っています。

あなたは何者ですか。

おそらく、私も同じ目をしていたでしょう。

その問いへ答える前に、片づけるべき案件がございます。

「杜興様」

「何だ」

「李家の皆様をこちらへ運んだのは、どなたの命令だと聞いておられますか」

杜興様の眉が寄りました。

「州知府の命だ。家人と家財を保護すると聞かされていた」

「州知府……」

保護と称して蔵を開けさせ、帳面を奪い、屋敷へ火を放つ。

そのうえ、州府ではなく梁山泊へ運んだ。

最初から、すべて偽りだったということです。

私は荷車を率いてきた兵の一人を呼び止めました。

「この一行を梁山泊まで運ぶよう、どなたから命じられましたか」

兵は一度、宋江様たちのいる方角を見ました。

答えてよいものか、迷っています。

「お答えください」

「……軍師殿の御指図にございます」

軍師殿――

梁山泊で、そう呼ばれる方は一人です。

攻略本に記されていたのは、李応様が梁山泊へ入るという結果だけです。

その一行の裏で、屋敷が焼け、人が騙され、帰る場所まで消されていた。

私は帳面を閉じました。

「呉用様をお呼びください」

今度は、説教だけでは終わりません。

本件、閻婆惜よりご報告いたします。

本日の確認事項は、以下の通りでございます。

人員を移動させる際は、到着後の部屋、食事、警護、荷物の保管場所まで先に決めておきましょう。

事情を知らない現場へ、人と荷物だけを送り込んではいけません。

揉め事が起きた場合は、当事者を守る者と、全体を整理する者を分けると円滑です。

用件の窓口を一本化すれば、不要な接触と新たな問題を減らせます。

皆様も、大人数を受け入れる際は、荷車が門をくぐる前に担当者をご用意くださいませ。

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