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出張中に婚姻案件を進めないでください

閻婆惜でございます。

本日は、江州出張から梁山泊へ戻ります。

ただし、普通の帰還ではございません。

穆弘様の屋敷を焼きました。

薛永様が途中で増えました。

花栄様が、ポチのように軍勢を率いて迎えに来ました。

水軍衆も、江州組も、まとめて梁山泊入りです。

成果は大きいです。

手続きは雑です。

事故報告書は厚くなります。

そして、ようやく戻ったと思ったら、私の留守中に秦明様と花宝燕様の婚姻案件が処理されていました。

呉用様――

有能なのは分かります。

ですが、婚姻は戦力配置ではございません。

攻略本知識が、頭の中で赤く点滅しております。

次に同じことをされると、もっと厄介なことになります。

たぶん、屋敷より人の心の方が炎上します。

水軍採用は完了。

ですが、今度は婚姻案件管理が始まりました。

本当に、悪女になる暇がありません。

穆弘様の屋敷は、夜のうちに片づけられた。

片づける、と言っても、帳面を閉じて鍵をかけるような穏やかな話ではない。

持てるものだけを持つ。

人を集め、逃げ道を決める。

そして、残すものを残さない。

つまり、屋敷を捨てるのである。

「火をかける」

穆弘様は、あっさりそう言った。

宋江様が目を見開く。

「穆弘殿、本当にそれでよいのか」

「よい。残せば追っ手に使われる。ここにいた者も、後で責められる」

迷いがない。

すごい。

判断が早い。

家財より人を取っている。

拠点責任者として、非常に優秀でございます。

ただし、退去処理が物理的すぎます。

穆春様は、すでに人を動かしていた。

「持つものは少なくしろ。馬は裏へ回せ。川沿いの者には張横殿が声をかける。怪我人は先に出す」

早い。

本当に早い。

穆兄弟、揃って撤退判断ができる。

採用評価としては高い。

現場としては火事である。

李立様は、隅で妙に静かだった。

静かすぎるので、逆に不安である。

「李立様」

「何でしょう、奥方」

「余計なことはなさらないでください」

「しておりません」

本当でしょうか。

この方の「しておりません」は、まだ発覚していないだけの可能性がある。

李俊様は、外の様子を見て戻ってきた。

「川筋は押さえました。夜明け前に出れば、追っ手より早く動けます」

「助かります」

「張順も水辺の者に話を通しております」

大変よろしい。

水軍採用者は、事故報告書付きではあるが、成果としては大きい。

問題は、採用された方々が全員、逃亡者に近い状態になっていることである。

水軍衆は揃いました。

ただし、全員、指名手配犯候補でございます。

宋江様は、奥の部屋でしばらく黙っていた。

李逵様は、その近くに置かれている。

置かれている、という表現でよいと思う。

あの方は、配置しなければならない。

自走式火薬樽は、宋江様のそばにある時だけ、少し安定する。

危険物管理としては不思議だが、有効なら使うしかない。

やがて、屋敷の一角に火がついた。

火の手が上がる。

人の住んでいた屋敷が、赤く照らされる。

穆弘様は振り返らなかった。

穆春様も、振り返らなかった。

私は一度だけ見た。

大きな屋敷だった。

多くの人を泊め、物を動かし、逃げ込む先になれた場所。

それが今、追っ手に渡さないために燃えている。

梁山泊へ行く、ということはこういうことだと、改めて思い知らされた。

戻る道を、自分で焼くことでもある。

「行きましょう」

私が言うと、宋江様が頷いた。

「うむ」

こうして、私たちは穆弘様の屋敷を後にした。

夜明け前の道は暗く、湿っていた。

川から霧が上がっている。

張横様が先を見る。

張順様は時々、せせらぎを聞くように耳を傾ける。

李俊様は全体を見ている。

戴宗様は追っ手の動きを読んでいる。

李逵様は宋江様のそばを歩いている。

時折、何かを殴りたそうな顔をするが、宋江様が一言かけると落ち着く。

制御装置の効き目が高い。

ただし、制御装置が宋江様一名というのは、運用上かなり危険でございます。

しばらく進んだところで、前方が騒がしくなった。

「待て!」

男の声がした。

次の瞬間、穆弘様の顔が険しくなる。

「薛永か」

攻略本知識が、小さく反応した。

薛永様。

ああ、ここで出ますか。

私は、心の中で項目をめくった。

槍棒を使う芸人。

穆兄弟と揉める。

後に梁山泊へつながる人物。

また増えますね。

採用予定者が増える音が聞こえます。

道の向こうから現れた男は、旅装のまま、こちらを睨んでいた。

ただの通行人ではない。

身のこなしが違う。

「穆弘、穆春。こんな夜更けに大勢連れて、どこへ行く」

「お前には関わりのないことだ」

穆弘様の声が低くなる。

薛永様も引かなかった。

「関わりがない? 前に人を寄ってたかって追い払ったのは、どこの誰だ」

穆春様が前へ出る。

「今はその話をしている時ではない」

「俺には、その時しかない」

まずい。

ここで揉めるのはまずい。

追っ手が来る。

屋敷は燃えている。

黄文炳様は死んでいる。

宋江様を連れている。

李逵様は自走式火薬樽。

これ以上、導火線を増やさないでください。

「お待ちください」

私は前に出た。

穆弘様、穆春様、薛永様の視線がこちらへ来る。

「奥方」

李俊様が小さく声をかけた。

「少しだけ」

私は薛永様を見た。

「薛永様でございますね」

「なぜ俺の名を」

攻略本知識です。

とは言えません。

「聞き及んでおります」

便利な言葉である。

出典を問われなければ、大抵は使える。

「今、私たちは追われております。ここで争えば、全員まとめて捕まります」

「俺には関係ない」

「では、ここで私たちと揉めた後、追っ手に事情を聞かれることになります」

薛永様の眉が動いた。

「事情?」

「はい。燃えた屋敷。逃げる一行。役所の追っ手。そこに薛永様が一人」

私はそこで一拍置いた。

「説明できますか」

薛永様が黙った。

できませんよね。

私でも嫌です。

報告書に書きたくありません。

穆春様が口を開きかけたので、私はそちらにも向いた。

「穆春様もです。今は過去の揉め事より、現在の逃走が優先です」

「……分かった」

早い。

助かります。

穆弘様は、しばらく薛永様を見ていた。

「来るなら来い。置いて行く余裕はない」

「誰が一緒に行くと――」

「一人で残れば、捕まる可能性が高いです」

私が言うと、薛永様は嫌そうに顔をしかめた。

「奥方、言い方がきついな」

「緊急時ですので」

「……分かった。行ってやるよ」

増えました。

正式な手続きはありません。

本人同意は取りました。

かなり雑ですが、今は合格です。

その後、道はさらに慌ただしくなった。

後方から人の気配が近づくたびに、張横様と張順様が進路を変える。

李俊様は一度も声を荒らげない。

だが、全体が遅れないように、常に位置を直している。

私は歩きながら、頭の中で人数を数えた。

宋江様と私。

戴宗様と李逵様。

李俊様。

張横様と張順様。

穆弘様と穆春様。

李立様と薛永様。

出張の帰りにしては、多すぎる。

本当に多すぎる。

その時、前方から馬蹄の音が聞こえた。

追っ手かと思い、全員が身構える。

だが、先頭に見えた旗印で、宋江様の顔が緩んだ。

「花栄だ」

花栄様だった。

軍勢を率いて、こちらへ向かってくる。

整っている。

速い。

しかも、こちらを見つけた瞬間の動きが迷いない。

まるで、飼い主を見つけた犬のようだ。

花栄様は馬を止め、すぐに降りた。

「宋江殿、ご無事で」

「花栄、よく来てくれた」

「江州で騒ぎが起きたと聞き、急ぎ迎えに参りました」

さすがでございます。

来てくださるのはありがたい。

本当にありがたい。

ただし、迎えに来られるほど騒ぎになっているという事実は、あまりありがたくありません。

花栄様は私にも礼をした。

「奥方もご無事で何よりです」

「ご心配をおかけいたしました」

心配で済む内容ではありません。

江州で人が死に、屋敷が燃え、人数が増えました。

だが、ここで細かく報告している暇はない。

花栄様の軍勢に守られ、私たちはようやく梁山泊へ向かった。

梁山泊が見えた時、私は心底ほっとした。

帰ってきた。

生きて帰ってきた。

ただし、人数は出発時と違う。

だいぶ違う。

晁蓋様と呉用様が迎えに出ていた。

晁蓋様は、最初は笑っていた。

宋江様を見て、私を見て、花栄様を見て、李俊様たちを見たあたりで、笑顔の角度が少し変わった。

呉用様は、扇を持ったまま止まった。

「……ずいぶん、多うございますな」

その通りでございます。

私は一礼した。

「戴宗様への手紙は、無事に届きました」

「それは何より」

「李俊様から張順様への紹介状も、無事に届きました」

「それも何より」

「その結果、関係者が増えました」

晁蓋様が吹き出した。

呉用様は笑った。

笑いましたね。

その笑い方は、あまり信用してはいけない方の笑みです。

「なるほど。江州で何があったか、後ほど詳しく聞きましょう」

「事故報告書が必要でございます」

「厚そうですな」

「はい……かなり」

宋江様は苦笑していた。

李逵様は梁山泊を見回している。

薛永様はまだ状況を飲み込めていない顔をしている。

李俊様たちは静かに控えていた。

水軍衆、合流。

成果としては大きい。

そう思ったところで、私はふと違和感を覚えた。

秦明様がいる。

それはいい。

その横に、花宝燕様がいた。

距離が近い。

空気が違う。

私は瞬きした。

あれ――

花宝燕様の髪型が、少し変わっている。

装いも、以前と違う。

そして秦明様の立ち位置が、完全に夫のそれである。

私は呉用様を見た。

呉用様は、穏やかに微笑んでいる。

嫌な予感がした。

「呉用様」

「何でしょう」

「私の留守中に、何かありましたか」

「少々」

少々――

また出ました。

信用してはいけない言葉でございます。

「秦明殿と花宝燕殿の婚儀を整えました」

私は黙った。

今、何とおっしゃいましたか?

婚儀、整えました?

私が江州で自走式火薬樽を回収している間に、婚姻案件が処理されていた。

「当人の意思確認は」

「もちろん」

呉用様は笑っている。

だが、目が読みづらい。

「花宝燕殿も納得しております。秦明殿も同じく」

それなら、結果としては悪くない。

秦明様は危ういが、花宝燕様が納得しているなら、ただちに否定する話ではない。

だが、問題はそこだけではない。

「呉用様」

「はい」

「婚姻は、戦力配置ではございません」

呉用様の笑みが、ほんの少し深くなった。

「承知しております」

本当に承知していますか。

「念のため申し上げます。婚姻案件は、当人の同意、撤回の余地、周辺への影響、将来の危険性、すべて確認が必要です」

「奥方は、まこと細やかでいらっしゃる」

「細かいのではありません。後で燃えるからです」

晁蓋様が横で笑った。

「燃える?」

「はい。人の心は、屋敷より厄介に燃えます」

穆弘様の屋敷を焼いてきたばかりで言うことではない。

だが、事実である。

私は呉用様をまっすぐ見た。

攻略本知識が、頭の奥で赤く光っている。

扈三娘、王英、婚姻。

まだ先の話だ。

だが、先だからといって油断してはいけない。

梁山泊は、人を集める。

戦力を見る。

組み合わせる。

配置する。

その中に、女の婚姻まで入れられたら、危険である。

「次に同じような婚姻案件がある時は、事前に私へ共有してください」

「奥方へ?」

「はい」

「なぜでしょう」

「事故防止です」

呉用様は扇で口元を隠した。

「承知しました」

信用しすぎてはいけない。

だが、釘は刺した。

私は秦明様と花宝燕様を見た。

二人の間に、無理やりな空気はない。

そこだけは、少し安心した。

けれど、安心と警戒は別である。

水軍衆は揃った。

江州組も加わった。

梁山泊は強くなる。

その一方で、呉用様は私の留守中に、人と人を結びつけていた。

有能です。

非常に有能です。

だからこそ、怖い。

私は心の中で、新しい項目を作った。

水軍管理。

危険人物管理。

婚姻案件管理。

仕事が増えました。

梁山泊へ戻ったはずなのに、まったく休める気がしない。

出張は終わりました。

ですが、社内調整はここからでございます。

本当に悪女になる暇がありません……

閻婆惜でございます。

本件、江州出張からの帰還についてご報告いたします。

穆弘様の屋敷は燃えました。

薛永様は増えました。

花栄様は、ポチのように迎えに来ました。

水軍衆は揃いました。

成果は大きいです。

ただし、関係者が多すぎます。

そして、梁山泊へ戻ったところ、私の留守中に秦明様と花宝燕様の婚姻案件が処理されておりました。

当人同士に無理がないなら、そこは否定いたしません。

ですが、呉用様の差配は油断できません。

攻略本知識が告げております。

扈三娘様、王英様、婚姻。

この三つは、絶対に並べてはいけない危険物でございます。

婚姻は、戦力配置ではありません。

女の人生を、梁山泊の都合で処理してはいけません。

次に同じことが起きる前に、釘は刺しました。

水軍管理。

危険人物管理。

婚姻案件管理。

仕事が増えました。

本当に、悪女になる暇がありません。

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