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3/11

私はまだ悪女ではない

閻婆惜でございます。

本日は、宋江様の隠し事を確認いたします。

書状。

金。

友人関係。

そして、宋江様の不在時に訪ねてくる殿方。

どれも一つずつなら、まだ何とかなるかもしれません。

ですが、同じ家に揃いますと、話が変わります。

火事になる前に、火種は消しておきましょう。

紙に書いた確認事項を前に、宋江様はしばらく黙っていた。

私は、その沈黙を見ていた。

夫婦の沈黙。

病み上がりの妻を気遣う沈黙。

突然変わった妻を疑う沈黙。

そう考えれば、少しは情緒があるのかもしれない。

だが、私には別のものに見えた。

会議で都合の悪い資料が出た時の沈黙。

担当者が「その件は後ほど」と言う直前の沈黙。

役員が、知っているはずのリスクを知らないふりで通そうとする時の沈黙。

つまり、何かある。

「宋江様」

「なんだ」

「では次に、隠しているものを出してください」

宋江様は、見事に固まった。

分かりやすい。

私は筆を置いた。

「今の反応で、少なくとも一つはあると分かりました」

「婆惜」

「はい」

「そなたは、本当にどうしたのだ」

「病み上がりです」

「病み上がりで、人の隠し事を当てるのか」

「普段からでございます」

宋江様は困り果てた顔をした。

困るのはこちらである。

私は閻婆惜。

宋江様の妻。

死亡リスク高。

金銭関係に不穏あり。

本人は何かを隠している。

さらに、隠し事の中身はおそらく水滸伝本編に直結する。

もう、家庭内というより事故物件である。

「宋江様」

「うむ」

「私は怒っているわけではありません」

「そうは見えぬ」

「怒っている場合ではない、という意味です」

「余計に怖い」

「正しい判断です」

宋江様は黙った。

また黙った。

この方は返答に困ると黙る。

黙ると考えているように見える。

しかし、考えた末に情で動く可能性が高い。

危険である。

「まず確認します。私は、アナタを脅すつもりはありません」

「脅す?」

「少なくとも今は」

「今は、なのか」

「今後の状況によります」

宋江様の顔がさらに曇った。

言い方を間違えたかもしれない。

ただ、嘘をついても仕方ない。

私は紙の端に、もう一つ項目を書き足した。

六、宋江様は隠し事がある。

宋江様がすぐに覗き込んだ。

「婆惜、それは消してくれ」

「確認が取れましたら、修正します」

「修正であって、削除ではないのか」

「事実であれば削除できません」

「夫婦の会話とは思えぬ」

「夫婦だからです」

私は顔を上げた。

「外で燃えてから知るより、家の中で知った方がまだましです」

宋江様の表情が、少しだけ変わった。

痛いところに触れたらしい。

やはり、ある。

私は声を落とした。

「書状ですか」

宋江様の眉が動いた。

当たり――

「金品ですか」

今度は目がわずかに泳いだ。

これもある。

「誰かから預かったものですか」

宋江様は、完全に黙った。

三つ目も当たり。

私は深く息を吸った。

父のゲーム。

攻略本。

宋江。

晁蓋。

生辰綱。

役所。

密告。

閻婆惜。

断片が頭の中でつながりかける。

細かい順番までは思い出せない。

けれど、宋江様が誰かのために危ない書状か金を抱える流れは、非常にありそうだった。

むしろ、沢山ありそうで嫌だった。

「宋江様」

「……なんだ」

「危ないものを、家に持ち込まないでください」

「危ないものではない」

「今の言い方は、危ないものを持っている方の言い方です」

宋江様は口を閉じた。

私は続けた。

「刃物や毒だけが危ないものではありません。書状、金子、印、名前の書かれたもの、誰かを庇った記録。そういうものは、人を殺します」

宋江様の顔から、少しずつ笑みが消えていった。

冗談として聞き流せない内容だったのだろう。

私も冗談で言っていない。

会社でさえ、紙一枚で人は飛ぶ。

左遷。

降格。

懲戒。

解雇。

訴訟。

社外流出。

それがこの時代なら、首が飛ぶ。

かなり直接的に。

「そなたは、何を知っている」

低い声だった。

初めて、宋江様の声に警戒が混じった。

当然である。

こちらも言いすぎた。

だが、引くわけにはいかない。

「詳しいことは知りません」

これは本当だった。

「ただ、危ない顔は知っています」

「顔」

「はい。善意で隠し事をしている方の顔です」

宋江様は、ぐっと言葉を詰まらせた。

私は少しだけ姿勢を正した。

「宋江様……人を助けることと、証拠を抱え込むことは別です」

「証拠などではない」

「では、私に見せられますね」

「それは」

「見せられないものは、証拠か弱みか火種です」

「婆惜」

「はい」

「そなた、言葉が強くなったな」

「命がかかっていますので」

そこは譲れない。

目覚めたら閻婆惜。

夫は宋江。

相手は何かを隠している。

この状況で、やわらかい言葉を選んでいる余裕はない。

宋江様は、しばらく目を伏せた。

そして、観念したように立ち上がった。

「待っておれ」

「どちらへ」

「取ってくる」

「一人でですか」

「この部屋の中だ」

「では、私も見ています」

「信用がないな」

「信用と管理は別です」

宋江様は何か言いたげだったが、黙って部屋の隅へ向かった。

棚の奥。

布に包まれた小さなもの。

その下に、さらに紙らしきもの。

私は、布団の上からじっと見ていた。

隠し場所としては甘い。

少なくとも、探す気がある者なら見つける。

机の引き出しよりはましだが、家の中に置く時点で危険である。

宋江様が戻ってきた。

手には、包みと書状があった。

私は、それを見た瞬間、頭の中で警報が鳴った。

紙。

名前。

金品。

宋江様の沈黙。

非常に悪い。

「こちらですか」

「うむ」

「誰から」

「友からだ」

出た。

友――

便利な言葉である。

会社でも、古い付き合い、信頼できる相手、昔からの縁という言葉はよく出た。

だいたい、その後に契約書が雑になる。

「友人名を確認しても?」

宋江様は渋った。

私は待った。

ここで急かすと、相手は守りに入る。

しばらく沈黙を置く方がいい。

宋江様は、やがて小さく言った。

「晁蓋」

来た。

私は、心の中でリスク表に赤い丸をつけた。

晁蓋――

たしか重要人物。

梁山泊側の中心。

生辰綱絡み。

役人に追われる。

宋江様が関わる。

そして、話が大きくなる。

非常によろしくない。

「晁蓋様」

「知っているのか」

私は表情を崩さず、首を少し傾けた。

「名は聞いたことがございます」

「顔が怖いぞ」

「名を聞いただけです」

「その顔でか」

「生まれつきです」

宋江様は、それ以上追及しなかった。

ありがたい。

ただし、不安でもある。

この人は本当に追及が甘い。

私は書状を指さした。

「中を拝見しても?」

「それは」

「宋江様」

「うむ」

「私の死亡リスクに関わる可能性があります」

「大げさだ」

「私は閻婆惜です」

宋江様が黙った。

いや、そこは知らないはずでは……

と思ったが、私の顔が真剣すぎたのだろう。

宋江様は、ゆっくり書状を差し出した。

私は受け取った。

文字は読める。

不思議だった。

この体の記憶なのか、そういう仕様なのかは分からない。

ただ、読めるなら助かる。

内容を追う。

細部は違っても、意味は分かった。

危ない。

ものすごく危ない。

役人に見つかれば、宋江様は終わる。

晁蓋殿も終わる。

関係者も巻き添え。

私も、当然ただでは済まない。

私は書状を畳んだ。

「宋江様」

「なんだ」

「これは、なぜ家にありますか」

「急ぎで預かった」

「なぜ、家に」

「他に置く場所が」

「なぜ、私のいる家に」

宋江様は黙った。

私は、こめかみを押さえた。

ここだ。

こういうところだ。

悪人ではない。

義に厚い。

友を助けたい。

だから危険物を家庭内に持ち込む。

その結果、妻が巻き込まれる。

夫婦仲も炎上する。

役人も動く。

水滸伝が始まる。

始めないでほしい……

「宋江様」

「すまぬ」

「謝罪より先に、保管方法です」

「保管」

「はい。現状、この書状は危険物です。持っているだけで問題になります」

「だが、捨てるわけには」

「捨てろとは申し上げておりません」

私は紙を取り、確認事項の下に新しい欄を作った。

重要書状管理。

宋江様が、嫌そうな顔をした。

「もう少し穏やかな題はないか」

「では、夫婦間確認事項」

「それはそれで怖い」

「内容は同じです」

私は筆を走らせた。

一、書状の存在を不用意に口外しない。

二、私に黙って移動させない。

三、机、寝所、衣の中に置かない。

四、金品と一緒に保管しない。

五、誰かに渡す時は、相手と時刻を記録する。

宋江様が、隣で頭を抱えた。

「婆惜」

「はい」

「友を助ける話なのだ」

「承知しております」

「ならば、なぜこのように」

「友を助けるなら、なおさら雑に扱ってはいけません」

宋江様の動きが止まった。

私は書状を見た。

「大事な友なのでしょう」

「うむ」

「なら、記録と保管を軽く見るべきではありません。宋江様が捕まれば、その友も困ります。私も困ります。家人も困ります。誰も得をしません」

「……それは、そうだが」

「義で動くなら、後始末まで含めて義です」

宋江様は、口を閉じた。

今度の沈黙は、少し違った。

考えている。

たぶん、本当に考えている。

よし――

私は内心で小さく頷いた。

この人には、感情を否定するより、感情の行き先を管理する方が効く。

義をやめろと言っても無理。

友を見捨てろと言っても無理。

なら、せめて危険物を寝所に置くな、である。

宋江様は、低く言った。

「そなたの言うことにも、一理ある」

一理――

少ない。

だが、最初はそれでいい。

「ありがとうございます。では、次に金品を確認します」

「まだあるのか」

「あるのでしょう」

宋江様は目を逸らした。

本当に分かりやすい。

包みを開くと、金らしきものが出てきた。

私は、静かに天井を見た。

低い天井だった。

ついさっきも見た。

人生の答えは書いていない。

「宋江様」

「うむ」

「これは、何の金ですか」

「晁蓋殿からだ」

「名目は」

「礼だ」

「何に対する」

「助けたことへの」

「受け取ったのですか」

「断りきれず」

私は目を閉じた。

断りきれず。

便利な言葉である。

だが、受領は受領である。

「領収書は」

「りょうしゅうしょ?」

「いえ、今のは忘れてください」

この時代に領収書を求めた私が悪い。

「少なくとも、これは危険です」

「なぜだ。金に罪はなかろう」

「金に罪はありません。ですが、出所の不明な金は人を疑わせます」

「友の礼だ」

「役人にそう説明して通りますか?」

宋江様は黙った。

また黙った。

私は包みを閉じた。

「この金は、使わないでください」

「しかし」

「使えば足がつきます」

「足」

「痕跡です」

「なるほど」

「なるほどではありません」

その時、外から声がした。

「宋押司はおいでですか」

若い男の声だった。

宋江様が顔を上げる。

私は書状と金品を見た。

来客――

このタイミングで来客。

危険物の確認中に来客。

嫌な予感しかしない。

「どなたですか」

私が聞くと、宋江様は少し気まずそうな顔をした。

「張文遠だ」

張文遠――

その名にも、覚えがあった。

宋江。

閻婆惜。

張文遠。

並べてはいけない名前が、家の入口で揃い始めている。

私は、膝の上で指を組んだ。

まだ……

まだ何もないはずだ。

少なくとも、今の私にはない。

この体の昨日までがどうだったかは分からないが、宋江様の反応を見る限り、決定的な何かが起きた後ではない。

なら、戻せる。

悪女になる前なら、まだ線を引ける。

「宋江様」

「なんだ」

「書状と金品をしまってください。今すぐ」

「う、うむ」

「同じ場所には置かないでください」

「今か」

「今です」

宋江様は慌てて包みを分け、棚の奥へ戻そうとした。

「そこは先ほど見ました」

「では、どこへ」

「ひとまず衣箱の底へ。後で変更します」

「分かった」

宋江様が動く間に、私は身なりを整えた。

病み上がりという扱いで進めるなら、無理に起きる必要はない。

だが、会わずに済ませるのも危険だった。

張文遠がどの段階の人物なのか、確認しなければならない。

宋江様が戸口へ向かった。

「張文遠か。入れ」

戸が開いた。

入ってきたのは、宋江様より若い男だった。

整った顔というほどではないが、身なりは悪くない。

口元に軽さがある。

人懐こいようで、どこか距離の測り方が近い。

会社にもいた。

上司の機嫌を取り、女性社員にやわらかく話しかけ、責任の重い場面では少し後ろに下がる人。

悪人とは限らない。

だが、心の隙間に入り込むのは得意そうだった。

張文遠は宋江様に礼をし、それから私を見た。

「奥方、お加減はいかがですか」

奥方――

声が少し甘い。

私は、表情を崩さなかった。

「病み上がりですので、不要な会話は控えております」

張文遠が一瞬、目を瞬かせた。

宋江様も目を瞬かせた。

二人とも同じ顔をしないでほしい。

こちらが不安になる。

「それは失礼いたしました」

張文遠はすぐに笑った。

切り替えが早い。

危険度を一段上げる。

「本日は、どのようなご用件でしょうか」

私が聞くと、張文遠は少しだけ笑みを深くした。

「いえ、宋押司に少々お話が」

少々――

また出た。

今日は少々が多い。

「内容を先に伺っても?」

「奥方にお手間を取らせるほどのことでは」

「お手間かどうかは、内容を伺ってから判断いたします」

張文遠の笑みが、ほんの少し固まった。

宋江様が横から口を挟もうとした。

「婆惜、張文遠は」

私は宋江様を見た。

「宋江様」

「うむ」

「用件不明の来訪者を、危険物確認中に通すのはお控えください」

「危険物」

張文遠の視線が動いた。

しまった……

言い方が悪い。

私はすぐに続けた。

「いえ、病み上がりのため、室内を片づけておりました」

「今の言い換えでよいのか」

宋江様が小声で言った。

よくはない。

だが、危険物よりはましである。

張文遠は少し探るように私を見た。

「奥方、今日はずいぶんと……」

「病み上がりです」

先に言った。

便利である。

病み上がり。

しばらくはこれで押す。

張文遠は笑った。

「そうでした。お大事になさってください」

「ありがとうございます。では、用件を」

「宋押司へ、役所のことで少し」

役所のこと。

宋江様。

張文遠。

来訪。

危険物直後。

私は、心の中で赤字を増やした。

「役所のことでしたら、ここではなく役所でお願いいたします」

「え?」

張文遠が声を漏らした。

宋江様もこちらを見た。

私は続けた。

「公の用件は公の場で。私的な用件は内容を明確に。今後、この家で宋江様へお話がある場合は、先に用件をお伝えください」

「婆惜」

宋江様が困った声を出した。

「厳しすぎぬか」

「厳しくありません。今が甘すぎます」

張文遠が苦笑した。

「奥方は、随分はっきりおっしゃる」

「曖昧にすると、後で揉めますので」

「揉めるような話ではありませんよ」

「揉める話は、だいたい最初にそう言われます」

張文遠が黙った。

宋江様も黙った。

二人とも黙った。

この家は、沈黙が多い。

張文遠は、少し空気を変えるように笑った。

「では、出直しましょう。宋押司、また役所で」

「あ、ああ」

張文遠は私に向き直った。

「奥方も、お大事に」

「ありがとうございます」

私は軽く頭を下げた。

張文遠が去り、戸が閉まる。

足音が遠ざかるまで、私は黙っていた。

それから宋江様を見た。

「宋江様」

「なんだ」

「張文遠様がいらしても、今後、宋江様の不在時は私が応対いたしません」

「なぜだ」

「危険です」

「張文遠がか」

「張文遠様だけではありません。状況が、です」

宋江様は眉を寄せた。

分かっていない顔だった。

この人は、人の善意はよく見るが、心の隙間の危うさには鈍い。

鈍すぎる……

「夫婦仲が良くない家に、距離の近い知人が出入りする。そこに金銭不満と隠し事がある。噂になる条件が揃いすぎています」

宋江様の顔が、少しずつ変わった。

ようやく意味が届いたらしい。

「そなたと張文遠が」

「まだ何もありません」

私は即答した。

その言葉が、自分の中に染み込んだ。

まだ。

そう、まだだ。

この体が何を感じていたとしても、昨日まで何を考えていたとしても、決定的なところまでは進んでいない。

なら、ここで止められる。

悪女になる前に、線を引ける。

「私は、張文遠様と不貞をするつもりはありません」

宋江様は、ひどく驚いた顔をした。

「不貞など、誰も」

「言われる前に否定しておきます」

「なぜ、そこまで」

「後で揉めるからです」

私は紙を引き寄せた。

新しい項目を書く。

十一、張文遠様の単独訪問は不可。

十二、宋江様不在時の面会は不可。

十三、用件は事前に確認する。

十四、私はまだ悪女ではない。

宋江様が覗き込んだ。

「婆惜」

「はい」

「十四は何だ」

「重要事項です」

「誰も、そなたを悪女などとは」

「今は、です」

「今は?」

「評判は、発生してからでは遅いのです」

宋江様は言葉を失った。

私は筆を置いた。

宋江様の書状。

晁蓋殿からの金品。

張文遠様の来訪。

夫婦仲の不穏。

金銭不満。

死亡フラグ。

見事に危険材料が揃っている。

煙は出ている。

火種もある。

しかし、炎になっていない。

なら、消せる。

「宋江様」

「なんだ」

「本日より、危ないものを家に持ち込む前に私へ相談してください」

「うむ」

「用件不明の来客を家に入れないでください」

「うむ」

「張文遠様と私を二人きりにしないでください」

「そこまで必要か」

「必要です」

「信用がないのか」

「信用ではなく、運用です」

宋江様は頭を抱えた。

「そなたと暮らすのは、なかなか大変そうだ」

「私もそう思います」

「自分で言うのか」

「はい」

私は紙を見下ろした。

水滸伝の運命を変えるなど、大きなことを言うつもりはない。

梁山泊も、百八星も、まだ遠い。

だが、今この家には書状がある。

金がある。

宋江様がいる。

張文遠様が来た。

そして私は閻婆惜である。

十分すぎる。

まずは、この家からだ。

悪女にならない。

殺されない。

宋江様を死なせない。

晁蓋殿も、できれば巻き込まない。

そのためには、義侠心より先に保管場所。

人情より先に来訪記録。

夫婦の情より先に、誤解を生まない運用。

私は、最後にもう一行を書き足した。

本件、要管理。

少し考えて、その横に加える。

夫も要管理。

宋江様がそれを見た。

「婆惜」

「はい」

「それも消してくれ」

「確認が取れるまでは消せません」

宋江様は、両手で顔を覆った。

私は、その横で書状と金品の置き場所を考え始めた。

梁山泊はまだ遠い。

だが、火種はもう家の中にある。

水滸伝の運命を変える第一歩が、家庭内コンプライアンスになるとは思わなかった。

いや――

考えてみれば、かなり納得できる。

この物語は最初から、書類と距離感の扱いが悪すぎる。

本件、閻婆惜よりご報告いたします。

本日の確認事項は、以下の通りでございます。

書状は寝所に置かない。

金は使わない。

張文遠様とは二人きりにならない。

以上でございます。

なお、私はまだ悪女ではございません。

ここは大事ですので、確認事項に残しておきます。

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